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2012.04.12 Thursday

放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案に対する意見(パブコメに補足しました)

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    「放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案に対する意見」

    環境省の改正案:「事業活動に伴い生じた廃棄物については、対策地域内廃棄物から除外し、当該廃棄物を排出した事業者が、事業系一般廃棄物又は産業廃棄物として、自ら処理を行うこととする。」

    ●意見の要約 :
    本改正案は、全国の住民に無用な放射線被曝を強制する人権無視の法案である。特に子どもや胎児の健やかな成長を第一に考えるべき国の本来の政策の対極にあり、絶対に容認できない。
    ●意見及び理由 :
    <意見> 警戒区域・計画的避難区域内の放射能汚染度の低い残留物や廃棄物であってもこれらを一般廃棄物あるいは産業廃棄物として処理してよいことにする規則改正は、絶対に容認できない。
    <理由> この改正案には、以下のような問題がある。

    (1) (放射能物質処理の一般原則)
    放射性物質は、封じ込め、拡散させないことが国際的な原則である。放射性微粒子による内部被曝は少量といえども大きな危険が存在することは常識となっている。従って、放射能に汚染された物は「拡散してはならない、燃やしてはならない。」これが人間の命と環境を保護する鉄則である。

    1)放射能汚染された廃棄物を汚染地域外に持ち出すことは、いのちに危害を及ぼす放射性物質の存在地域を広げることであり、持ち出しはしてはならないのである。放射性物質を原発では「封じ込める」ことに務めていたはずが、いったん爆発して外に出ると「拡散させる」は如何に不見識で乱暴な行為であることかを、法治国家として認識すべきである。

    2)放射能汚染度が高いところに野積みにされたりした廃棄物には放射能汚染があることは言うまでも無い。本特措法はこれら高度の放射性汚染物質を汚染の低いところに持ち出すことであり、行ってはならないことを「法」の名を持って、実施させることであり、かかる規則改正は行ってはならない。

    3)廃棄処分される多くの場合いったん焼却される。焼却処理すると2次被害を作り出す。瓦礫に放射性物質が付いているままでも、大気、地下水、漂流水、海水、土を介して自然生活環境を汚染するので、汚染物と自然生活環境は遮断しなければならない。しかしこれを燃やすと、さらに厄介な健康障害の原因物質が生み出される。吸い込んだり食べたりできる姿に変えてしまうのである。放射性微粒子が空気中に広がったり、残灰が一般ごみと同じ処理をされて、再利用されて生活の場を被曝させる状態に持ち込むことは、厳禁である。生活の場近くに再利用されたり、田畑にまかれたりすることはさらに被曝を住民にもたらすこととなる。焼却という2次被曝の操作だけでなく、一般ごみと同様に処理することは、焼却と同様な2次被害を及ぼすこととなり、放射能汚染物質の処理の原則に反する。

    いのちと環境を守るための鉄則を破り、国や行政が決して行ってはならない「市民の健康を傷つける可能性」を開き強制する本特措法案は、誠意と配慮に欠けた最悪の法案である。

    (2) (つじつまの合わないダブルスタンダード)
    我が国の現状は、事業所(原子力発電所)内から排出される放射性セシウム(Cs-137 )が100ベクレル/キログラム以下(「原子炉等規制法」)の低レベル放射性廃棄物は、ナベやフライパンなどの台所用品や公園のベンチなどに
    リサイクルすることが認められている(クリアランス制度)。この点は、去る3月26日衆議院第一議員会館で開催された環境省交渉でも、厳しく追及されたきわめて重大な問題点である。ヨーロッパでは、1997年クリアランス法がEU議会に提出されようとしたとき、低レベル放射性物資による内部被曝の危険性に留意して、放射性物質の拡散を容認する同法案は阻止されたという経緯がある。クリアランス制度は国際的にも厳しく批判されている制度である。本来、日本政府も、本「放射性物質汚染対処特措法」はもとより、放射性物質のクリアランス制度も廃棄するべきである。

    ところが、政府は、昨年6月、事業所外では放射性セシウムが8000ベクレル/キログラム以下の廃棄物について、一般廃棄物最終処分場(管理型最終処分場)での埋め立て最終処分を認め、8月には8000ベクレル以上、10万ベクレル以下の焼却灰などまで一定の条件下の管理型最終処分場(ビニールシートなどによって地下水への移行が遮断されるというが、ビニールシートなどの劣化は早く、地下水は早晩放射性物質によって汚染されると考えなければならない)への最終処分を認めた。さらに12月には、管理保管できる遮断型処分場の場合は10万ベクレルを超えるものまで処分できるようにした。遮断材であるコンクリートの寿命はたかだか数十年であることを考えれば、このような措置は市民の健康と環境保護の視点に欠ける。

    そもそも、わが国の現状は、原子力施設外の市民生活の場における汚染許容基準が原子力施設内の80倍から1000倍以上という、完全に転倒したダブルスタンダード(二重基準)が野放し状態になっており、決して容認できるものではない。

    (3) (住民の健康と環境こそ守るべき本体)
    放射能汚染度が極度に高いために設定された警戒区域・計画的避難区域から出る廃棄物を、「事業系一般廃棄物又は産業廃棄物」として処理することは法理に反するものである。

    そもそも政府は憲法25条に基づき、国民の文化的で健康に生きる生存権を保護し、その忠実な実施に徹すべきであるが、上記のような措置は、国民の命と環境保全をあまりにも軽視するものである。

    一般市民が「事故が起こったから放射線に対する抵抗力が20倍になる」はずはないが、政府は事故直後、公衆に対する被曝限度値を1ミリシーベルト/年から20ミリシーベルト/年に引き上げた。この特措法はそれらと同様、法の視点から国民保護を捨て去ったものであり、許されるものではない。

    (4) (特に焼却処理について)
    現時点での放射性物質の主成分は放射性セシウムである。セシウムの沸点は他の多くの金属類と比較して低く、678℃ほどであり、融点は28.4℃である。(融点以上ではセシウムは液体であり、沸点以上では気体となる。)一般焼却炉ではダイオキシン発生を避けるために燃焼温度を800℃くらいに保つ定温燃焼をしている。しかし、800℃では放射性セシウムは完全に気体状態になる。とくに問題なのは蒸気圧の高さである。蒸気圧とは、例えば、水は100℃で沸騰し、それ以下では液体であるが、100℃以下でも空気中に気体状態の水分が含まれている。通常空気中に含まれる水分を“湿度”と呼び日常生活に溶け込んでいる。これと同様に、バグフィルターの通過ガス温度約200℃でも放射性セシウムは100パスカル(1000分の1気圧)ほどの蒸気圧があり、これら気体状態の放射性セシウムはバグフィルターに捕獲されることはない。

    さらに、融点が28℃近辺と低いことは放射性セシウムの原子としての結合力が低いことを意味し、200℃ほどのバグフィルター通過温度では、仮に放射性セシウムが単体であるとした場合は液体であり、固体微粒子となる他の物質に比べて極めて通過しやすい。他の原子などと結合して、微粒子になるとしても原子の結合力が他の大方の金属等に比べて弱いために、大きい微粒子は形成しにくい傾向にある。一般のごみ処理用に設計されているバグフィルターでは、かなり大量に空気中に漏れていくことが予想される。

    加えて、セシウムに比べ骨や歯への蓄積性はるかに高いストロンチウム90や極めて毒性の強いプルトニウム239を無視した現行の対応は、決して容認できるものではない。

    以上のように一般ごみと同様に焼却する場合には、セシウムの漏洩は大量であることが予測され、放射性がれきの汚染ゴミも一般焼却炉では処理してはならない。従って、本法案が前提としている「一般ごみ同様に」処理する方法には大きな問題がある。もし、焼却する場合の鉄則は専用炉で行わなければならない。依って本施行規則改正案は認められない。
                                                     以上


                                                  2012年4月9日
                                        市民と科学者の内部被曝問題研究会
                                            (略称 内部被曝問題研)
                                                代表 澤田 昭二     




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