<< 大規模に進められるWBCによる内部被曝調査について 矢ヶ崎克馬 | main | 被爆者健康手帳交付請求 (通称:被爆体験者訴訟)における意見書 矢ヶ崎克馬 >>
2013.09.20 Friday

進行する放射線被曝とチェルノブイリ法・基本的人権 矢ヶ崎克馬

0
    2013年9月

    進行する放射線被曝とチェルノブイリ法・基本的人権

    矢ヶ克馬

    矢ヶ克馬_進行する放射線被曝とチェルノブイリ法・基本的人権 (14ページ,1250KB,pdf)


    目次
    1.はじめに
    2.チェルノブイリ周辺国の防護基準(チェルノブイリ法)
     (1)保護基準
     (2)空間線量率
    3.汚染を低く見せる!
     (1)真の被曝線量の半分しか示さないモニタリングポスト
     (2)内部被曝を考慮しないことと計算により、汚染を低く見せる
    4.日本の高汚染地帯の面積は、チェルノブイリに比べて広い
    5.空間線量率年間0.3ミリシーベルト以下の汚染地で甲状腺がん40倍
    6.健康被害を放射線に関係づけるな!(福島県等による被害隠蔽)
    7.放射線から住民を守る:学習運動と基本的人権の確立を

    1.はじめに
     放射性物質から放射される電離放射線は、五感で感じることができません。その被害は急性だけではなく晩発性傷害が深刻です。それだけに国や自治体が住民を守る観点からの汚染データの提供や健康管理がとりわけ重要となります。ところが、被曝を見る科学の目は原爆以来徹頭徹尾、加害者の都合が「科学」と称されてきました。福島原発の爆発から後の事態についても日本政府は、人々のいのちを守るのではなく、電力会社の利益(賠償責任等の軽減)、更にはいわゆる「原子力ムラ」の利益を優先して沢山のことを決定してきました。その結果は人々のいのちを切り捨てるものです。

    (1) 公衆の年間放射線限度値を1mSvから20mSvに引き上げました。
    (2) 食品に対する法的制限値を、市民が内部被曝を避けて健康を守れる値ではなく、非常に高い値を設定しました。放射性物質の放射性セシウム(134と137の合計)について500 Bq/kg等という値です。今は一般食品:100 Bq/kg、乳児用食品50 Bq/kg等に低減されていますが、健康を守れるものでは全くありません。半減期の長いセシウム137については、市民の健康を守る実際上の意味のある、ドイツ並みの、おとなでは8 Bq/kg、子どもに対しては4 Bq/kg程度以下にすべきです。そもそも日本の原子力規正法では、100 Bq/kg以上は低レベル放射性廃棄物として放射線従事者が黄色いドラム缶に詰めて専用保管場所に厳重に保存しなければならないことになっていました。
    (3) 原子炉が爆発した直後、放射性ヨウ素から甲状腺を守るための「安定ヨウ素剤」を市民、特に子どもたちにさえ与えませんでした。与えない理由の根底には「与えると放射性物質の恐ろしさを伝えてしまうことになる」からという安全神話を維持しようとする考え方があったとされます。
    (4) 放射能で汚染された地域にある震災がれきを、全国の非汚染地帯に拡散させようとしています。原子力規制法等で定められていたセシウム137で汚染されているものの規制値100 Bq/kgを80倍の8000 Bq/kgに釣り上げました。

     事故が起こったからと言って、誰も放射線に対する抵抗力が20倍にはなりませんから、政府のこれら一連の決定は、住民の保護を優先したものではありません。これらの一連の決定はICRP(国際放射線防護委員会)勧告に従って行われたものですが、ICRPは市民の健康を守るよりも原発推進のための利益を優先させる功利主義に徹していることが知られています(「経済的に可能な範囲で住民保護を行う」(リスク対経済効果))。事故処理方針も住民犠牲の上に設計されているといえます。ICRPに従うことは日本の市民にとって非常に有害です。
     国民主権の立場から見ると、市民のいのちを考慮せずに、被曝を受け入れさせる方針の上に諸施策が決められることは極めて野蛮なことであり、許されることではありません。内部被曝を避けるためのいかなる予防措置も執らずに、年間の被曝限度を引き上げることは、主権者のいのちを切り捨てるものです。

     政府は「設定された線量以下ならば、健康被害はありません」と言いきってきました。ICRPでさえ、低線量被曝の危険性を言及しているのに、政府は限度値を上げて、その値以下であるのならば、被曝しても大丈夫です、と宣言しました。このような政治の元では必ず将来において、異常出産、発がん等々、たくさんの健康被害が生じてくることは、チェルノブイリ原発事故の経験から明らかです(核戦争に反対する医師団、ドイツ支部、「チェルノブイリ原発事故によってもたらされたこれだけの人体被害」、合同出版(2012)、ヤブロコフら 2009 “Chernobyl Consequences of the C Catastrophe for People and the Environment” http://chernobyl25.blogspot.jp/、 O.V.ホリシュナ、「チェルノブイリの長い影〜チェルノブイリ核事故の健康被害』 <研究結果の要約:2006 年最新版>」、Children of Chernobyl Relief and Development Fund、(2006)、 その他)。

     チェルノブイリ周辺国(ロシア、ベラルーシ、ウクライナ)には、放射能汚染から住民を守る住民保護法(チェルノブイリ法)があります。日本の規制基準はそれよりずっと高いものです。日本の市民がチェルノブイリ周辺国の市民より放射線に対する感受性が低いはずがありません。チェルノブイリ法では居住も生産も禁止されている汚染領域に、日本では今なお100万人規模の膨大な数の人々が居住しているどころか、「復興」のために帰還を促されている状態です。「福島子ども裁判」の判決では県内に住む危険性が指摘されています。食品に対する放射能規制値は高すぎて健康を守る値ではありません。また、高濃度汚染食品は広範囲な土地から報告されており、流通を通じての内部被曝が進んでいます。放射能の汚染は半永久的にずっと続くものです。国際原子力ムラと称される加害者の目線で構築された放射線被害切り捨てシステムに対し、私たちは、異質の危険である放射線被曝から全国住民を政府の責任において守ることを基本的人権として要求し、放射線防護の100年の計を立てることを要求するものです。


    2.チェルノブイリ周辺国の防護基準(チェルノブイリ法)

    (1)保護基準

     1986年にチェルノブイリ原発の爆発事故が起こりました。1991年には、周辺国は1 mSv/年の線量から保護策を実施しています。5 mSv/年以上の汚染地域では「住んではいけません。生産活動もいけません。」という住民保護を打ち出しています。

     チェルノブイリ周辺国の住民保護基準は、以下のとおりです。
    年間1 mSvの被曝線量を基準として、それ以上の汚染地域に対して居住制限をしている。
    汚染地域の区分はセシウム土壌汚染率などに依っている。各地で核種毎の降下量が少しずつ異なるという事情などもあり、チェルノブイリ法ではセシウム137が185 kBq/m2の時に、年間1 mSvであると設定している。
    外部被曝と内部被曝の相対量を6:4に設定している。したがって、1 mSv相当の土壌汚染から土壌汚染が3倍になると被曝量は5倍になる。
    土壌汚染から空間線量の評価は、あらゆる放出された核種を考慮して空間線量率を求めている。空間線量率と屋内での空間線量率および平均的な生活時間から外部被曝の実効線量評価をしている。

    (2)空間線量率
     具体的に日本と比較検討する際に、土壌汚染から放出される空間線量が外部被曝の基本ですから、空間線量率で比較してみます。
     比較対象の好例として1990年秋に空間線量が実測されたロシアのブリャンスク州のデータがあります(V. Malko:長期的な放射線被曝とガン影響の総合評価、チェルノブイリ事故による放射能災害、今中哲司編、技術と人間(1998))。

    表1 チェルノブイリ法の住民保護基準
    table1

     ブリャンスク州には低汚染地域から、セシウム137換算汚染レベルが7400 kBq/ m2に達する高汚染地域までが分布しています。
     この州で、年間1 mSvと設定し、住民を避難させる境界値となっている185 kBq/ m2(5 Ci/k m2)の実測空間線量は、チェルノブイリ原発事故により放出された汚染の空間線量率が年間1 mSv弱です。屋内の空間線量率は屋外のおよそ21%と計測されています。これらの値は他の地区にも準用できることが確認されています。外部被曝の基本は空間線量に依ります。空間線量も系統的に測定すれば信頼モニタリングポストできる基準となります。日本における空間線量率の測定(文科省、2011年12月)の結果と照合させました。ちなみに日本における屋内の線量率は家屋構造の違いから屋外の40%と設定されています。
     日本における汚染表示の問題点は、土地汚染を土地汚染として表示せず、いきなり人の実効的被曝線量(土地汚染の60%)をもとめていることです。

    3.汚染を低く見せる!
      (1)真の被曝線量の半分しか示さないモニタリングポスト
     住民の健康保護を目的にする以上、モニタリングポストを即刻改善して、住民の受けている実際の空間線量を正直に表示することを求めます。

     福島市やその周辺自治体には、市民の健康を守るために放射能環境を監視する目的で、675個の可搬式モニタリングポストが、日本政府によって設置されています。それらの数値は放射能環境の公式データとして使われています。


    fig1
    図1 モニタリングポスト



    図2 モニタリングポストは半分しか示さない(内部被曝問題研究会測定班による)

     図1に、設置場所に納まっている可搬式モニタリングポストを示します。
     私たちは、このモニタリングポストの正確さを検証するために網羅的に線量測定を行ってきました。その結果、住民が曝されている放射線量の半分の値しかモニタリングポストは示していないという、大きな問題が発覚しています。
     図2には、福島県内のいくつかの地域での測定結果を示します。ここで、約半数のモニタリングポストの周囲が半径10m程度の範囲で除染されており、残りの半数ほどは周囲が除染されていませんでした。
     図2において、上側の黒い線はモニタリングポスト周囲の、上記約10m範囲の外側の位置で、市民が曝されている実際の放射線量を示します。それに対して下側の灰色(赤系統の色)の実線は、周囲が除染されている場合、灰色の点線は周囲が除染されていない場合のモニタリングポストの値の平均直線です。周囲が除染されているかいないかに関わらずこの灰色(赤系統の色)の実線と点線はあまり変わりありません。(最小二乗法の平均化で3%の差(54%〜51%)がありますが、誤差範囲内と考えられる差です。モニタリングポストへ到達する放射線が飛程の長いガンマ線であることによると考えられます。
     重大事項は、モニタリングポストが真の値の50%ほどしか示していないことです。公的なデータとして提供されるモニタリングポストが実際の半分しか示していないのは、決定的な欠陥です。公的なデータを与え、住民を放射線から保護する基本データになるモニタリングポストの値が常に50%ほどに低減されている状態は許されません。根本的改善を要求します。直ちに是正することを要求します。
     文科省が内部のバッテリーの位置だけを移動させる工事を2012年末から執行していますが、これでは改善できても高々10%です。
     計測値が低いことの基本的原因は、モニタリングポストの設置状態にあると考えます。それは、放射線を遮蔽する鉄板が土台に敷かれていること、諸部品が計測部の近くにおかれ放射線を遮蔽していること、金網で周囲が囲まれていること等が挙げられます。モニタリングポストのあるべき表示基準はあくまで周囲の汚染状況が指示されていることです。正確に値を指示するようにして初めて住民を保護する施策の土台となりますので、バッテリーの位置交換程度でお茶を濁さずにきちんと改善することを要求します。
     さらに、東京都その他大都市の高層ビル林立地帯は航空モニタリングでは実際の放射能汚染を確認することはできません。そのために、汚染が過少評価されています。これらの地域の空間線量は、実測により測定し汚染マップを作成すべきです。市民の測定したデータもとりいれるべきです。

      (2)内部被曝を考慮しないことと計算により、汚染を低く見せる

     日本政府は、住民の被曝線量を評価するのに、内部被曝を全く評価していません。住民保護の観点として、チェルノブイリ法に準じて、内部被曝を評価することを求めます。
    それに加えて、日本では土地の汚染そのものを表示せずに、いきなり住民の平均被曝線量を導入して数値上の過小評価をしています。土地汚染を汚染として評価すべきです。
    日本政府は追加被曝量(自然放射能に加えて原発事故で追加された量)の計算として0.23 μSv/hの空間線量率を年間1mSvに対応させています(2011(平成23)年12月19日に出された「放射性物質汚染対処特措法に基づく汚染廃棄物対策地域、除染特別地域及び汚染状況重点調査地域の指定について(お知らせ)」)。この場合の計算根拠は自然バックグラウンドとして0.04 μSv/hを仮定し、原子炉から放出された放射性物質による空間線量率の60%にあたる0.19 μSv/hと対応させているのです。しかしながら、土地汚染を示す年間1mSv達する線量率(μSv /h)は約0.114 μSv/hであるのです。日本は土地の汚染を表すことをせず、いきなり生活実態から求めた土地汚染の60%に当たる被曝線量を示すことで、真の汚染量を低く見せているのです。現在環境省等国が採用している評価係数、0.19 μSv/h、は即刻改善すべきです。

     ひとりひとりの人の実効線量を求める目安は、日本では以下のように設定されています。「1日のうち屋外に8時間、屋内(遮へい効果(0.4倍)のある木造家屋)に16時間滞在するという生活パターンを仮定して、 『1時間当たり0.19マイクロシーベルト ×(8時間 + 0.4×16時間)× 365日 = 年間1ミリシーベルト 』」として、1日の被曝線量を評価することにしています。すなわち、この過程をすると屋外空間線量の60%市民の受ける被曝線量となるのです。もう一つの問題点は、住民は汚染された土地にいる以上、必然的に内部被曝をします。チェルノブイリ法では住民保護のために外部被曝の3分の2の内部被曝を設定しています。これに準じれば、上記の場合内部被曝の0.67ミリシーベルトが加算されて、1.67ミリシーベルトとなります。平常時の日本の法的基準:年間1ミリシーベルトを達成するためには外部被曝の換算係数を『1時間当たり0.19マイクロシーベルト』ではなくて、『0.114マイクロシーベルト』とすべきです。

     日本政府による放射能汚染調査の仕方は、‥效榔染量そのものを極端に過少評価しようとしています。その方法は、モニタリングポストの実測値の低減化です。さらに、内部被曝を無視した計算方法をとるという何重にもわたる過少評価を積み重ねたものです。チェルノブイリの汚染地図と日本の汚染を比較するとき、対応を誤ってはいけません。日本では内部被曝を切り捨てているため、誤った係数を使用し、実際の環境からの外部被曝と内部被曝による年間被曝線量を3分の1程度の低い年間線量に縮小評価しています
     このような放射能汚染状況を過小評価させるシステムを稼働させていることは、住民の健康被害を増幅させるものであり、現実の汚染状況を正しく評価するようにしなければなりません。直ちに改善することを要求します。


    4. 日本の高汚染地帯の面積は、チェルノブイリに比べて広い

     日本の高濃度放射能汚染面積はチェルノブイリ原発事故による汚染面積よりも広いのです。図3は、チェルノブイリと同じ縮尺で、チェルノブイリ法に準拠して算出した(後述)日本の汚染マップです。日本の汚染マップは2011年12月に発表された文科省による航空モニタリングの空間線量率から得た年間被曝線量を利用しています(「子どもの地球新聞」提供)。実際には、東京都などの高層ビルディングが林立した場所の航空モニタリングでは、正確な汚染状況を測定できていません。(さらにこのグラフでは、自然放射線量を差し引いていませんので、原発から放出された放射性物質による汚染とは、最大30%程の誤差はあります)。
     チェルノブイリ原発事故による放射能汚染地図は、1990年に得られたセシウム137降下量に基づきます。薄く濃い(黄土色の着色)領域は年間1 mSv〜5 mSvの被曝量の区域(土地汚染では185〜555kBq/m2、外部被曝、0.67 mSv〜3mSv)で、チェルノブイリでは「移住権利」の汚染ゾーンです。この区域は明瞭に日本の方が広いです。濃い(茶色の)領域は5 mSv以上の区域(土地汚染では555kBq/ m2、外部被曝、3 mSv以上)で、チェルノブイリでは「移住義務」の汚染ゾーンです。日本では、この領域もチェルノブイリと同等かそれより広いです。日本では、チェルノブイリで 『住んではいけません』、『食糧生産もいけません』と指定された汚染ゾーンに100万人規模の市民が居住し生活を営んでいるのです。

     このように日本の高汚染地帯の面積が広いことは、爆発の規模に依存します。すなわち、チェルノブイリの原子炉爆発では地上6000 mにまで放射性物質を噴き上げ、主に北半球の広大な地域に放射性降下物を分散する規模であったのに対し、福島原発では爆発時の放射性物質の噴き上げが100 m規模であったため比較的近距離に放射性物質を降下させたことが、周囲に対する放射性物質の集中度の違いをもたらしていると考えられます。

    fig3
    図3 チェルノブイリ周辺と同じ規格による汚染表示

     日本では、このような深刻な汚染状況が多くの市民に気が付かれていない原因は、政府と東電などをはじめとする「原子力ムラ」の過小評価・隠蔽体質に加えて、モニタリングポスト表示の低減化ならびに、環境省による空間線量率を年間被曝量に換算する方法の問題が挙げられます。これらの作為が、日本における汚染表示ならびに汚染認識の重大な誤りを導いています。この誤りは市民のいのちを脅かすものです。


    5. 空間線量率年間0.3ミリシーベルト以下の汚染地で甲状腺がん40倍
     図4はベラルーシにおけるチェルノブイリ原発爆発前後のおける甲状腺がんンの発生状況です(松崎道幸氏提供)。特徴的なことは、被ばく線量が0.5〜5ミリシーベルト(外部被ばく0.3〜3ミリシーベルト)のゴメリー州では事故前の14年間で1名だった小児甲状腺がん手術症例が事故後の15年間で365名の甲状腺がんが発生しているに増加している。外部被曝線量が0.3ミリシーベルト以下のミンスクでは43倍(2例だったものが87例)に増加している。
     さらに、図5にはチェコ共和国の土地汚染状況とガンの発生数を示している。
    特徴は、被曝量0.03ミリシーベルト/年間の汚染度で有意に甲状腺がんが増加していることが認められることです。

    fig4
    図4 ベラルーシにおける甲状腺がん発生状況(事故前14年間と事故後15年間の比較)


    fig5
    図5 チェコ共和国における土地汚染状況と甲状腺がんの増加


     このように、日本では「何の心配もない」とされるような低い汚染度で大量の小児甲状腺がんが確認されていることです。日本の今後における甲状腺がんやその他のがん発生はこのような事例を参考にしなければなりません。


    fig6
    図6 (出所:松崎道幸 2012)


    6.健康被害を放射線に関係づけるな!(福島県等による被害隠蔽)
     ベラルーシの子どもの甲状腺がんは事故後2年では年間4名に増えています。しかし今、日本では事故後2年で10名の悪性腫瘍が確認され、3名ががん手術を受けたとされます。猶予ならない事態が進行しています。図6は甲状腺に3ミリメートル以上の嚢胞の保有率を示したものです。20歳以上は日本全国に住む人に対する日本人間ドック学会(人間ドッグ学会誌25: 789-797 (2011))、18歳以下は福島県内の小児に対する福島県健康調査委員会による調査です。明らかに大人のデータよりも子どものデータの方が数倍の大きさを持っています。何らかの異常原因が働いているとみなすべきです。青森と長崎の子どもに対する同様な調査が行われ、福島県内の小児の保有率と同程度の保有率が確認されましたが、ベラルーシの例を見れば、日本中の子どもが福島県内の子どもと同様なひばくをしている可能性を示唆しています。関東圏を含む東日本から沖縄に避難している家族の方々の、甲状腺、鼻血、下血、腫瘍など放射線起因が懸念される症状は枚挙にいとまがありません。
     しかし、甲状腺をはじめとする健康被害に対しては、国あるいは福島県は公的な記録に載せないように隠ぺいをずっと画策し続けたといえる歴史が展開しています。小児の甲状腺検査を指揮している山下俊一福島県立医大副学長(当時)は、2012年4月、日本甲状腺学会の会員メールを通じて、他施設で甲状腺の検査を希望しても検査を断るように要請して、患者の医療を受ける権利を侵害し、データの独占的把握を行おうとしました。
     「県民健康管理調査」に関する福島県立医科大学教授・鈴木眞一の記者会見(2012年9月11日)の後、毎日新聞等で「県民健康管理調査」の検討委員会における「秘密会」の報道に接しました。これは、同調査の本検討委員会に先立ち「秘密会」を開催し、調査結果に対する見解をすり合わせ「がん発生と原発事故の因果関係はない」などを共通認識とし、秘密会の存在も外部に漏らさぬよう口止めをしていたなどの報道であり(『毎日新聞』2012年10月3日付朝刊)、「第3回『県民健康管理調査』検討委員会(2011年7月24日)」における克明な文書の内容の報道もありました(同紙2012年10月5日付朝刊)

     また、内部被曝の検出に際してはホールボディーカウンターよりも50倍から100倍も感度よく検出できる尿検査をしないように画策したことが判明しています。2012年11月に、福島県の県民健康管理調査の検討会議の議事録の一部、「県側が尿検査に難色を示した箇所」を、福島県が公開する時には削除されていたことが判明しているのです。

     最近(2013年5月28日)、次のような報道がありました。「東京電力福島第一原発事故について、国連科学委員会が報告書案をまとめた。集団でみた日本国民の総被曝(ひばく)線量(集団線量)は、甲状腺がチェルノブイリ原発事故の約30分の1、全身は約10分の1と推計した。個人の被曝線量も推計し、多くが防護剤をのむ基準以下で、健康影響は「(6千人の甲状腺がんが出た)チェルノブイリとは異なる」「(がんの発生は少なく)見つけるのが難しいレベル」と結論づけた」。都合のよいデータに「絞り上げる」手段はすでに「核兵器に反対する医師の会」ドイツ支部:『チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害』に例記されているとおりです。決して現実の被害を切り捨てさせてはなりません。


    7.放射線から住民を守る:学習運動と基本的人権の確立を

      (1) 「はじめに」の冒頭に書いたように、放射性物質から放射される電離放射線は、五感で感じることができません。その被害は晩発性傷害が深刻です。このことが被害を隠ぺいする絶好の条件となってきました。被曝を見る目は原爆以来徹頭徹尾、加害者の都合が「科学」と称されてきました。米核戦略により内部被曝が隠され、「国際原子力むら」により放射線被害実態が隠され続けました。被曝に関する「科学」ほど、真理の探究が阻害され続けている学問はありません。政治支配が制度化され間違った見方が強制されています。市民は、本当の放射線の危害を学習しなければなりません。放射能から身を守り、健康で文化的に生きる基本的人権を獲得するうえで学習は不可欠です。全市民的な学習運動を展開しましょう。

      (2)日本に於いて進行している被曝の定常化は福島県内に限られた状態ではありません。広範に展開するホットスポット、流通を通じて余儀なくさせられてしまう内部被曝・・。日本の市民全員に危機が及んでいます。汚染が100年規模で半永久的に続くことを思えば、まさに100年の計を打ち立てることが大切です。日本に於ける市民の被曝保護についても、同じ人間として、少なくともチェルノブイリ周辺で施行されている保護基準(チェルノブイリ法)に準じた保護基準を適用しなければなりません。なぜならば、チェルノブイリ周辺で危険と判断されている放射線量は当然日本でも危険なのです。日本に住む市民とチェルノブイリ周辺市民は放射線に対する抵抗力は当然同程度です。経済状況や人口密度等の条件で市民に及ぼす危険が変化することはありません。杓子定規にはいきませんが、チェルノブイリ法の精神で、日本に於ける住民保護を行うべきです。健康で文化的に生きる権利は基本的人権です。私たちは放射線防護に関する基本的人権を要求します。

      (3)人権の内容
    1.チェルノブイリ法の住民保護の基準は年間1ミリシーベルトから始まっています。国際的に認められ、日本でも定められている「公衆には年間1ミリシーベルト以上の被曝をさせてはならない」という基準は、日本国政府が義務として実施しなければならないものです。直ちに20ミリシーベルトまでの年間線量限度を撤廃し、1ミリシーベルト以上は危険であることを市民に通知し、防護責任を果たすことを要求します。
    2.チェルノブイリ法では、年間5ミリシーベルト以上の汚染地では住むことも生産活動することも禁止されています。また、土地の汚染からもたらされる外部被曝線量が60%、内部被曝が40%として考え、合算して年間線量限度を設定しています。日本でも被曝線量に内部被曝を加えて住民を保護すべきです。
    3.人々の保護が第一です。高度汚染地域に人々を呼び返すことを直ちにストップさせるべきです。全国の1ミリシーベルト以上の汚染地にいる希望するすべての人に、国の責任で移住の権利を保障すること。移住先で健康で文化的な生活が営めるよう支援すること。子どもの集団疎開を実施すべきです。被曝弱者に対する被曝防止と医療保障の制度的措置が求められます。全ての人を対象に無料の健康診断と医療保障の実施を求めます。
    4.市民が口にするすべての食品に放射能検査を施し、検査結果を表示させるべきです。食料品を取り扱う生産・流通・消費のあらゆるプロセスに食品放射能汚染測定体制を整えるべきです。特に学校給食、と町内会等に食品放射能汚染測定体制を整えることを要求します。また、α線やβ線も測定できる検査体制を構築することを要求します。
    5.食糧の放射能基準は健康を維持させる基準とすべきです。ドイツの「放射線防護令」並みに、少なくとも1kgあたりおとな8ベクレル、子ども4ベクレル程度とすべきです。厳しく基準を守り、生産保障を確立すべきです。また、全国の非汚染地域で食糧大増産を行うべきです。
    6.モニタリングポストあるいは、航空モニタリングの測定の過誤を改め、過小評価せずに客観的に正確な汚染表示をすべきです。日本国中の土地の汚染度を正確に測定し、汚染マップを作成することを要求します。
    7.私たちの宝である子どもたちの被曝を防ぐため、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(2012年6月27日法律第48号)(通称:子ども・被災者支援法)の骨抜きを許さず、日本国政府など行政が全力で取り組むことを要求します。

      (4)住民運動:最大防護
    政府や自治体に働き掛けて住民の被曝を防ぐ諸対策を体制化させましょう。
    政府や自治体の動くのを待てません。住民の手で最大防護を実現させましょう、
    1. 汚染地域に人々を呼び返すことを直ちにストップさせるよう、国や自治体に働きかけましょう。移住の権利を保障し、移住先で健康で文化的な生活が営めるようにする法律を作らせましょう。子どもの集団疎開を住民の手で実現しましょう。妊婦さんなど被曝弱者の緊急避難を支援しましょう。
    2. 住民が医療機関に働き掛けて、健診と治療を行う緊急医療プロジェクトを立ち上げましょう。子ども・市民の原発事故以来のすべての健康変化を記録しましょう。
    3. モニタリングポストの改善を国に要求しましょう。日本国中の土地の汚染度を測定し、汚染マップを作成することを要求しましょう。民間測定所や市民の測定結果を生かし、自主的な総合的汚染マップを作り上げ、住民保護の要求基盤といたしましょう。
    4. 国に、食品の放射能規制を、健康を守れる値に引き下げることを要求しましょう。ドイツの「放射線防護令」の内容並に、大人8ベクレル/kg、子ども4ベクレル/kgほどに設定する住民の自主基準を作りましょう。市民が口にするすべての食品に放射能検査を施し、検査結果を表示させるようにさせましょう。主食の米の検査は1ベクレル/kgまで測定できるように要求しましょう。食料品を取り扱う生産・流通・消費のあらゆるプロセスで食品放射能汚染測定体制を整えることを要求しましょう。すべての学校給食の食材の検査を徹底するように自治体に働き掛けましょう。また、α線やβ線も測定できる検査体制を構築することを要求します。
    5.福島県内にとどまらず、高汚染地域での食糧生産を停止させ、全国の非汚染地域で食糧大増産を行うべきです。全国の休耕農地を整備し、高汚染地帯の農家の方の移住と生業を確保致しましょう。
    6.あらゆる放射能汚染の拡散に反対しましょう。
    この記事のトラックバックURL
    トラックバック