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2014.07.15 Tuesday

山田耕作・渡辺悦司_福島事故による放射能放出量はチェルノブイリの2倍以上――福島事故による放射性物質の放出量に関する最近の研究動向が示すもの

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    2014年7月


    福島事故による放射能放出量はチェルノブイリの2倍以上
    ――福島事故による放射性物質の放出量に関する最近の研究動向が示すもの
    山田耕作 渡辺悦司
    2014年5月16日

    福島事故による放射能放出量はチェルノブイリの2倍以上 (33ページ,1256KB,pdf)
    2014年8月14日更新



    参照:補論URL・pdf
    補論1 福島原発事故によるヨウ素131放出量の推計について――チェルノブイリの1.5倍に上る可能性
    補論1 福島原発事故によるヨウ素131放出量の推計について――チェルノブイリの1.5倍に上る可能性 (8ページ,p1-p8,288KB,pdf)



     福島原発事故による放射性物質の放出量に関して一連の新しい研究が発表されている。青山道夫氏(当時気象庁気象研究所)注1らのグループは、2013年9月に刊行された著作で、福島原発事故による放射性核種の放出量・率の検討に一章を割き、‖腟っ罎悗諒出、汚染水中への漏出、3た紊悗猟樟椶領出を一体として評価するという方法論を提起している[参考文献1]。さらに、2014年4月には、チャールズ・レスターらによる米国カリフォルニア州政府資源局沿岸委員会の福島事故による放出量に関する報告書が公表され[参考文献4]、事故の規模の比較の際に一般的基準とされるセシウム137について見ると、,梁腟っ罎悗諒出量およびの海水への直接放出量に、青山氏らよりさらに大きな数値を採用している。ただ残念なことに、青山氏らは提示した方法を結論にまで進めておらず、レスターらは汚染水中への放出△鮃洋犬靴討い覆ぁ

     われわれは青山氏らの方法やレスターらの数字を基に、福島事故による総放出量を´↓の合計として計算し、チェルノブイリ事故との比較を試みた。その結果、福島事故は、政府・マスコミの事故直後からの評価のようにチェルノブイリ事故の「約1割」「10分の1程度」「1桁小さい」ものでは決してなく、チェルノブイリ事故に関する国連科学委員会を含む主要機関のどの推計と比較してもチェルノブイリ事故を上回り、2倍超から20数倍の規模であることが明らかになった。また米ネバダ核実験場での地上核実験の爆発総出力と比較しても、福島の大気中放出量の換算爆発出力は、ネバダの合計を上回り、その3.6倍であった。福島県における子どもの甲状腺ガンのアウトブレイクの立ち上がりがチェルノブイリに比べて非常に速いが[参考文献17]、このことはチェルノブイリ事故と比べた福島事故による放射性物質の放出量の大きさと関連している可能性がある。われわれは、福島事故によるものと考えるほかない健康被害や人口減少が大規模に現れ始めている現在、あらためて放出量の推計に注目すべきであると考える。

    目 次
    1.原発事故による放射性物質の放出量比較の意義と限界 ・・・・・・・(3)
    2.放出量比較の批判的検討――クリス・バズビーによる ・・・・・・・(5)
    3.青山氏らのグループの数字が示したもの ・・・・・・・・・・・・・(8)
    (1)青山氏らの数字による福島とチェルノブイリの比較 ・・・・・・・(8)
    (2)結論を避けた印象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
    (3)青山氏らの数字の補正・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)
    4.汚染水タンクに含まれる放射能量による上記結論の検証・・・・・・(15)
    (1)広島原爆との比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(15)
    (2)チェルノブイリ事故による放出量との比較・・・・・・・・・・・(16)
    (3)福島事故の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(18)
    総 括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(20)
    注 記・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(21)
    参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(23)
    付表1-1 福島原発事故による放射性物質の大気中への放出量 
         日本政府の当初の推計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(25)
    付表1-2 福島原発事故による放射性物質の大気中への放出量 
         日本政府の推計改定値 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(26)
    付表2−1 青山氏らによるチェルノブイリ事故による放出量
         (単位ペタベクレル=E+15)・・・・・・・・・・・・・・・(27)
    付表2−2 青山氏らによる同福島事故による放出量
         (単位がE+nで表記されていることに注意。
         チェルノブイリ表の単位ペタベクレルはE+15である・・・・(28)
    付表3 レスターらによるカリフォルニア州資源局沿岸委員会の
        レポートによる福島の放出量の総括表・・・・・・・・・・・・(29)
    付表4 国連科学委員会の報告によるチェルノブイリの
        残存量と放出量の推計表・・・・・・・・・・・・・・・・・・(30)
    付表5 広島原爆による放射性物質の放出量 代表的な推計 ・・・・・・(32)
    付表6 ネバダ核実験場における地上核実験での核爆発の総出力 ・・・・(33)

      1.原発事故による放射性物質の放出量比較の意義と限界

     政府は、福島原発事故後の早い時期に(約1ヶ月後)、事故による放射能の放出量を暫定的に推計し、チェルノブイリ事故の「1割程度」とした(2011年4月12日、当時の原子力安全・保安院の発表。原子力安全・保安院と原子力安全委員会[当時]の「推定的試算値」はセシウム137で各々6.1E+15と1.2E+16ベクレル[付表1-1])。その後マスコミ報道や政界の議論などでは、この数字がいわば一人歩きしてきた。それにより福島事故はチェルノブイリ事故よりも「桁違い」に小さい事故というイメージが作られてきた。

     われわれは、『原発問題の争点 内部被曝・地震・東電』(2012年9月緑風出版刊)の中で、このような一面的な事故像を押し付ける試みを批判した[参考文献8、第4章第3節、執筆は2012年3月]。この政府推計は、原発敷地およびその周辺と主として日本国内のモニタリングポストのデータしか算入しておらず、太平洋にあるいはそれを越えて飛散したり、汚染水として滞留したり地下水に漏れたり海に流れ出したりした放出量が抜けており、大きく過小評価されていると指摘した。このことを、世界的規模のモニタリングポストの観測結果に基づいたノルウェー大気研究所のストールらの研究[参考文献3]に依拠して批判した。

     われわれは、同書で、このストールらの推計を積極的に評価し、放出量はチェルノブイリの「約半分」という彼らの評価を採用して、放出量においてチェルノブイリに匹敵する事故と評価した。また、量的比較にかかわらず、事故の質や内容の点で、福島事故はチェルノブイリ事故よりもはるかに深刻であるとする見解を提起した。すなわち、(1)機器の故障や操作ミスなどの人為的要因なしに生じ、基本的には人間の力の及ばない自然の外的な力によって起こった、(2)長期にわたり事故の収束ができていない、(3)4基が同時に事故を起こし1プラント全体が事故に巻き込まれた、(4)4号機のように停止中の原発さえも事故を起こす危険性があることを証明した、(5)余震や新たな地震、その他各種自然災害の連鎖による事故の深刻化の危険がある、(6)チェルノブイリよりもはるかに人口が密集した地域で生じ、深刻さの度合いは違うが極めて多数の人々(福島周辺と東京圏で約4500万人、ある意味では日本の人口全体)を被曝させた、(7)女川原発から東海原発にいたる一連の広域の原発・核施設全体の事故が生じる可能性があった、などの点を指摘した。これらの観点は、量的比較を除いて、今もまったく正しい評価だと考える。

     ただ、その後に発表された福島事故による放出量に関する一連の研究を踏まえ、上記の評価の量的比較の側面についてだけは一定の改訂が必要であると考える。

     もちろん放出量の推計自体は、近似値であり、限定された意味しか持たず、事故の全貌を直接に示すものではないことは言うまでもない注2。しかし、福島事故の放出量が、チェルノブイリのおよそ「10分の1」という評価と、「チェルノブイリ以上」あるいは海水への直接放出と汚染水への放出を考慮すると「2倍超から20数倍程度」になるという評価とでは、明らかに「量から質への転化」がある。この意味で、放出量の推計は、福島事故を質的に評価する際の基本的な量あるいは数字であるということができる。そして、福島事故の本当の規模を示すデータが最近次々と公表されているのである。

     日本政府の発表した放出量推計は付表に掲げる[付表1-2]。政府推計は何度か訂正されているが、現在経済産業省のホームページにあるもの(セシウム137で1.5E+16)を使うことにする。また基準とする核種としては、長期的危険の大きく、また最も一般的に使われるセシウム137をベースとする。なお、政府発表では計数表示が「×10n」となっている。しかし「E+n」という表示もよく使用される。たとえば「×1016」は、「10の16乗倍」を表し、「E+16」とも表記し、日本の単位「京」に当たる。簡単な対応表を掲げておこう(表1)。

          表1 ベクレル計数単位の一覧

     ×1016  E+16  京      (例)チェルノブイリ・福島事故のCs137放出量
     ×1015  E+15  ペタ
     ×1013  E+13  10兆    (例)広島原爆のCs137放出量
                    (例)300tの汚染水中の放射性物質の総量
     ×1012  E+12  テラ=兆
     ×109   E+9   ギガ
     ×108   E+8   億     (例)漏れた汚染水1リットル中の放射能濃度
     ×106   E+6   メガ
     ×104   E+4   万
     ×103   E+3   キロ=千


      2.放出量比較の批判的検討――クリス・バズビーによる

     福島事故による放出量のチェルノブイリ事故との比較に関して、欧州放射線リスク委員会(ECRR)のクリス・バズビーは、すでに2012年7月刊行された著作で、きわめて重要な指摘をしている(クリス・バズビー『封印された放射能の恐怖』講談社[参考文献9])。バズビーによれば、福島の放出量を「チェルノブイリの約2倍以上」と評価すべきだという(同書105ページ)。

     バズビーはまず、チェルノブイリ事故そのものの放出量推計に大きな幅があることを指摘している。バズビーの揚げている表を引用しよう(表2)。

    表2 チェルノブイリ事故の放出量についての各種推計(バズビーによる)


     これによれば、チェルノブイリの放出量(セシウム137)の推計自体が、行った機関によって約2.6倍、バズビー自身の推計も入れると11倍以上の開きがあり、どの数字を採用するかで比較の結果は大きく違ってくる。バズビーは、これらのうちフェアリー・サムナー(2009)と国連科学委員会UNSCEAR(2011)の推計[付表4]を、残存量推計から過大評価と考え、サムナー(1991)他の初期の推計(3.8E+16)を採用している。

     福島事故の放出量についてバズビーは、ストールの推計、セシウム137で3.6E+16ベクレル(正確にはこれはストールの幅を持った推計23.3〜50.1 ペタベクレルの中央値35.8ペタベクレルである)を採用し、それをサムナーほかと比較している(表3)。

    表3 チェルノブイリ事故と福島事故の放出量比較(バズビーによる)

    クリス・バズビー『封印された放射能の恐怖』講談社(2012年刊)108、109ページ

     バズビーは自分の議論の全体を総括して、福島事故が、チェルノブイリ事故と比較して、セシウム137については「ほぼ同じ」、揮発性の核種については「約3倍」、キセノン133で「約9倍」の放出量としている。

     ここで付言すると、矢ケ崎克馬氏は、政府のモニタリングポストのデータを検証し、実際の空間線量を「モニタリングポストが真の値の50%ほどしか示していない」と批判している[参考文献11]。このことから、日本政府発表の大気中への放出量は最低でも2倍すべきであろう(正確な数字ではないが今はこれで十分であろう)。そうするとセシウム137の放出量は3.0E+16になり、ストールらの推計とほぼ同じ水準になる。このこともまた、バズビーが評価したストールらの数値の確度を示唆している。矢ヶ崎氏はまた、年間1ミリシーベルト以上の汚染地域についてチェルノブイリよりも福島の方が面積の点で広いことを指摘している[参考文献12]。福島では東側半分は海であって、観測可能な領域は本来半分以下である。それにもかかわらず福島の面積が広いということもまた、福島の放出量がチェルノブイリの放出量の「2倍以上」であるというバズビーの評価の正しさを裏付ける根拠の1つであろう。

     しかし最近、注目すべき新しい研究が発表され、バズビーのようにチェルノブイリの放出量推計のどれを選択するかという議論をしなくても、チェルノブイリに比較して福島事故の巨大さを十分に示すことのできるようになっている。

      3.青山氏らのグループの数字が示したもの

     気象庁気象研究所(著作出版当時)の青山道夫氏ほかによる英文の著作Fukushima Accident ― Radioactivity Impact on the Environment (2013年9月刊行[参考文献1、同書の概要は参考文献2]) は、さりげなく福島の放出量の方がチェルノブイリよりも大きいとするデータを提示している。「さりげなく」というのは、表に掲げながら直接は比較していないからである(付表2)。

    (1)青山氏らの数字による福島とチェルノブイリの比較

     青山氏らの数字の新しい点は、‖腟っ罎吠出された放射性物質に加えて、滞留水(スタグナント・ウォーター)中に放出された放射性物質および、3た綯罎膨樟槊出(ディレクト・ディスチャージ・トゥ・ザ・オーシャン)した放射性物質を考慮に入れ、放出量・率を´↓の合計として示すという方法を提示したことである。青山氏らは、,梁腟っ罎よび直接海水中への放出量・率について日本政府の数字をほぼそのまま採用し、△梁變運綯罎砲弔い討脇本原子力研究開発機構(JAEA)の西原健司氏ら[参考文献10]の数字を採用し、は青山氏も共著者の1人である電力中央研究所環境科学研究所の津旨大輔氏らの論文[参考文献14]および気象研グループの独自の推計(青山氏らの著作では「未発表」とされている)を基にしていると考えられる。

     △梁變運紊砲弔い討蓮■嘉醒躓しておかなければならない。第1に、原発内には大量の水が存在するので、事故の際そのような水にセシウムやストロンチウムなど水溶性の放射性物質が漏出し高濃度汚染水が発生する。この問題は、スリーマイルでもチェルノブイリでも生じた。ただそれらの場合、滞留水は文字通り滞留しており、後で何とか回収されるかあるいは封じ込められて、大規模な環境中への漏出はほとんどなかったとされている(もちろんこの点は検証が必要であるが今は置いておこう)。これに対し福島では、地震や津波さらには炉心溶融や爆発によって、圧力容器・格納容器・配管が破損して穴があき、さらには建屋とくにその地下構造が重大な損傷を受けて外部環境に対する封水性を喪失している。この点はとくに重要であって、「滞留水」には地下水が毎日数百トン規模で大量に流入し、また「滞留水」からも(量は明らかにされていないが)大量に地下水へと流出しており、結局海に流れ込んで海水を汚染している。すなわち「滞留水」は決して「滞留」しておらず、実際には外部環境に直接に曝され環境中に流出している。したがって、福島では、「滞留水」について、その一部分が後に「汚染水」としてタンクに汲み上げられ管理されることになったとしても、一度は環境中に漏出したものと解すべきである。この点で福島では「滞留水」の意味が根本的に違っている。青山氏らが今回、滞留水を大気中・直接海水中と並べて福島の放出量に加えたのはこのような事情を考慮したものと思われ、まさに的を射た判断であると言える。第2に、滞留水が具体的に何を示すかについて見てみると、青山氏らが参照した西原氏らの論文によれば、「滞留水」とは、各号機のタービン建屋地下および原子炉建屋地下、廃棄物処理建屋、トレンチに溜まった汚染水の合計であるとされている[参考文献10]。われわれの本論文では、用語上の混乱を避けるため、以下「滞留水」は単にこの西原氏らが定義した意味だけを表す用語として使用する。

     の海水中への直接放出量について、青山氏らは、セシウム137の数値を、津旨氏らの論文から採っている(青山氏は津旨論文の共著者の1人でもある)。同論文は、放出量を、日本政府推計のように事故後に海水への流出が目撃された事象あるいは人為的な放出事例における実測値を総計する方法(セシウム137で0.94ペタベクレル程度になる)ではなく、福島第1原発周辺の海域で実地にサンプリング調査を行いサンプル中の放射性物質の濃度から「領域海洋モデルROMS」を用いた海洋拡散シミュレーションを使って流出量を逆推計する方法をとっている[参考文献14]。

     青山氏らの著書に掲載されているチェルノブイリ事故の放出量および福島の放出量を付表2-1および2-2に掲げる。青山氏らは福島の´↓の放出「率」を各々掲げるところで止まり、放出率合計→総放出量→チェルノブイリとの比較へと進んでいく方向性を追求していない。これら2つの表からわれわれが計算して福島とチェルノブイリの放出量を直接に比較した表4を以下に掲げる。

    表4 青山氏らのデータに基づく福島事故による放射性核種の放出量の算出およびチェルノブイリ事故による放出量との比較(下線を引いた項目3列はわれわれによる計算)

    ・右側の4列は、青山氏らによる付表2[2-1および2-2]を基に、われわれが計算あるいは換算したもの。「チェル」はチェルノブイリの略記。「チェル放出量」は青山氏らの表の表示法を変更したもの。下線を引いた項目3列は青山氏らのデータを基にわれわれが計算したもの。
    ・青山氏らは、福島事故を2011年3月12日日本時間5時から2011年5月1日0時までの期間をとしている。それ以後に放出された放射能量は含まれていない。
    ・チェルノブイリ事故の放出量で数字に幅のあるものについては、最大値をとった。
    ・青山氏らは滞留水への放出量については、日本原子力研究開発機構(JAEA)の西原健司ら[参考文献10を参照のこと]の推計を参照したとしている。西原らの推計は東電およびJAEAによる汚染水の実測値に基づいている。


     青山氏らは、セシウム137について、福島で汚染水中△吠出された放射能の量を残存量の20%とする数字を採用している。大気中,悗諒出率は2.2%、海水中への直接の放出率は0.5%としている。青山氏らはなぜか合計していないが、これらを合わせると合計の放出率は22.7%、すなわち同書が採用した1〜3号機の炉心内残存量70E+16ベクレル(70京ベクレル)注3に対して計算して15.9E+16ベクレルになる。これは、日本政府が発表した数字1.5E+16の約10倍という大きな数字である注4。注目されるのは、汚染水中への流出で、それだけでいままでの政府推計の9倍以上が漏れたことになる点である。

     これを、チェルノブイリによる放出量についての国連科学委員会の推計8.5E+16(バズビーは過大評価としている)と比較しても、福島はチェルノブイリを大きく上回り、チェルノブイリの1.9倍となる。バズビーが採用している、サムナーの1991年の推計、セシウム137で3.8E+16を基に比較すると、福島はチェルノブイリの4.2倍となる。バズビー自身の推計9.0E+15(すなわち0.9E+16)を基にすると17.7倍となる。

     青山氏らの数字は、ストロンチウム90では、セシウムよりは相対的に少ないが、それでも国連科学委員会の数字に基づくと、チェルノブイリの0.63倍となって6割を超えほぼ匹敵する。サムナーの数字で比較すれば、1.1倍となりチェルノブイリを上回る水準である。

    (2)結論を避けた印象

     もちろん、同書には多くの問題点があることは指摘しておかなければならない。第1に、この本の基調は決して脱原発ではなく原発推進論である(正確に言えば「第4世代原子炉」積極推進論である[参考文献1のEpilogue、369ページ])。第2に、日本政府推計に追従して稼動していなかった4号機が独自の事故を起こした事実を認めておらず、1〜3号機からの放射能漏洩だけを計算して4号機からの放射能漏れはなかったとする、明らかに事実に反する推定に立脚している、第3に、大気中への放出量は、すでにストールらが過小評価と批判した日本政府の推計をほぼそのまま無批判に使っている、などである。ただ、いま重要なことは、これらの点の批判ではない。青山氏らの過小評価された数字でさえが明らかにしている重要な事実であり、青山氏らがこれを発見しておきながら明確に提起しなかった真の結論である。

     青山氏らの同書は、大気中・直接海水中・汚染水中への放出を合計し、チェルノブイリと比較するという方法を提起した点で大きな積極的役割を果たした。だが、彼らは自分の議論を最後まで推し進めなかったといえる。これは、事実をありのままに見ようとする方向に対し、何らかの外から妨害する力が働いているからかもしれない。このことを示唆する箇所は他にもある。たとえば、青山氏らの同書は、放射性ヨウ素の放出量を検討した箇所で、福島事故が再臨界(=核爆発)事故であった可能性に言及している。だが、その表現は「原子炉のメルトダウンした燃料において、いかなる重大な再臨界も、2011年4月以降に生じたということは、ありえないであろう」[参考文献1の135ページ]というものである。ということは「4月以前には」再臨界が起こっていた可能性が「ある」という評価になるが、論文の展開はここで止まっている。極めて重要な論点だが、ここではテーマから外れるので指摘するだけにとどめよう。

    (3)青山氏らの数字の補正

     ここで、福島事故による大気中(上記 砲悗諒出量については、相対的に確度が高いと考えられるストールらの推計3.6E+16を採用して青山氏らの数字を補正すれば、大気中への放出率は5.1%となる。ただし、国連科学委員会のチェルノブイリのセシウム137の数字は多くの場合に比較の対象とされるが、注意すべきなのは最大値あるいは上限値を採っている点である[付表3]。したがって、幅をもったストールの推計(23.3〜50.1ペタベクレル)から、比較のためには最大値を採るべきであろう。そうすると5.01E+16ベクレルとなり、放出率は7.2%となる。

     さらに海水への直接(上記)放出量については、米カリフォルニア州政府資源局沿岸委員会が採用した数字(レスターらのグループによる[参考文献4])、セシウム137で3.6〜41ペタベクレルを採ろう。その中央値をとって2.23E+16とすれば、海水への直接放出率は3.2%となる。ここでも上記のとおり国連科学委員会の数字にあわせて最大値(上限値)を採ると4.1E+16で、放出率は5.9%になる(この最大値の元々の出所はベイリー・デュ・ボアの研究である[参考文献5]。なおレスターが引用している大気中への放出量の最大値はストールの数字である)。

     これら(上記,鉢)の最大値を、青山氏らが採用している汚染水(滞留水)中(上記◆砲悗諒出量14.0E+16(放出率20.0%)と合計すると、全体の総放出量は、23.11E+16ベクレル、放出率は33.0%となる。この数値が現在のところ、おおよそ最も信頼できる数字と考えてよいであろう。これを国連科学委員会の推計で比較すると、チェルノブイリの2.7倍、サムナーの1991年の推計で比較すると6.1倍となる。バズビー自身の推計を基にすると25.7倍となる(表5)。

    表5 福島事故放出量の青山氏らの数値の補正とチェルノブイリ事故、原爆、ネバダ実験場地上核実験総出力との比較(総括表) (セシウム137についての推計)


     付言すれば、福島事故では、セシウム137の放出量に対してセシウム134の放出量が相対的に大きい点が特徴である(およそ1:1、これに対してチェルノブイリでは1:0.6程度)。レスターらの報告を紹介している英文のエネルギーニュースサイト(ENENEWS)は、セシウム137・134の合計値を基に、米国政府発表のチェルノブイリの数値と比較を行い、大気中,板樟楹た綯罩の放出量の合計値で、福島の方がチェルノブイリよりも大きいと指摘している(105対181ペタベクレル)[参考文献6]。セシウム137・134の合計値を国連科学委員会の数値で比較しても、明らかに福島の方が多い(13.9E+16対18.1E+16ベクレル)。落合栄一郎氏は、事故の比較の場合、セシウム137だけではなくその他のセシウム同位体とくに134も加えるべきであるという問題提起をされている[参考文献15の81および271ページ]。当を得た見解であり、今回ここでは一般に行われているセシウム137をベースとした比較を中心に検討したが、今後の課題としたい。

     すでに見たように、バズビーは、福島を全体として「チェルノブイリの約2倍以上」の放出量だとしているが、この評価の正しさは、日本の青山氏ら気象研究所、津旨氏ら電力中央研究所環境科学研究所、西原氏ら日本原子力研究開発機構のグループやアメリカのレスターらカリフォルニア州政府機関などの推計によって、はっきりと確認されているといえる。むしろ「約2倍以上」というバズビーの評価は、今となっては慎重な、あるいは慎重すぎると考えてよく、「2倍超から20数倍」の放出量だとすべきであろう。

     また広島原爆との比較では、政府のいう「168発分」ではなく「約2600発分」ということになる。広島原爆との比較では、さらに進んでアメリカ国内のネバダなど核実験場での地上核爆発との比較を行わなければならない。Wikipedia 日本語版には、「核実験の一覧」の項があり(米国エネルギー省の資料に基づいていると思われる)、ネバダ実験場では合計171回の地上核実験が記載されている(地下核実験への移行後も地上への漏洩はあったであろうが、さしあたりここでは無視する)。地上での核爆発の出力を全部合計してみると付表6のようになり、2.5メガトン程度である。広島原爆の爆発出力を16キロトンと仮定すれば、日本政府発表の数字である広島原爆168発分で2.7メガトンとなり、ネバダ実験場で行われた全ての地上核実験の総出力を上回る。放射能放出量は、ほぼ爆発出力に比例すると考えられるので、これは過小評価が明らかな日本政府の放出量推計値に基づいても、福島の放出量はネバダ実験場での大気中への総放出量を上回る可能性が高いということを意味する。福島について現実に近いと考えられるストールらの推計の広島原爆562発分を採ると、約9メガトンとなり、福島はネバダ実験場での地上総爆発出力の約3.6倍になる。ネバダ実験場の広さは鳥取県ほどあるといわれ、周囲のほとんどは人の住まない砂漠である。しかも、Wikipediaの記録では、メガトン級の核実験はネバダでは一度も実施されていない。

     それに対して福島では、メガトン級の放出(大気中放出量で9メガトン、総放出量では42メガトン)があったにもかかわらず、すぐ近くまで人々が住み続けており、政府はさらに住民を帰還させようとしている。政府が行っている、住民を避難させず反対に帰還させる方針は、いわばネバダ核実験場の近傍に住民を住ませ続け、さらに補償などで差別や期限を設け、帰還を半強制的に進めるという措置であり、「人道に対する犯罪」に等しいと言える。

      4.汚染水タンクに含まれる放射能量による上記結論の検証

     青山氏らが採用した汚染水への放出率・量の推計が大きくは間違っていない(過小評価の可能性があるにしても)ことは、福島原発の汚染水タンクに溜まっている汚染水中の放射性物質の量を検討すれば明らかである。

     2014年4月12日の日本経済新聞によると(読売新聞も同じ報道をしている)、東京電力は、2013年8月19日にタンクから漏れた汚染水の放射線量を、なぜか今になって、当初発表の1リットルあたり8000万ベクレルから、2億8000万ベクレルに訂正した。すなわち当初発表の3.5倍だったとした。

     東電は、表向きの印象を和らげるためであろうが、放射線量をリットル当たりで発表している。しかし、これを昨年8月に漏れた300トンの汚染水について掛け算して(30万倍して)計算すると、まったく別の姿が見えてくる。漏れた300トンだけで、漏水中の放射線量は、84兆(8.4E+13)ベクレルとなる。

    (1)広島原爆との比較

     まずは、この300トンを単独で考察しよう。いまこれが、すべてセシウム137だと仮定すると、広島に投下された原子爆弾による放出量(8.9E+13ベクレルと推定されている、付表6参照)とほぼ同じ規模(94%)となる。すべてストロンチウム90だと仮定すると、広島原爆(5.8E+13ベクレルと推定)の1.45倍となる。両核種が広島原爆とほぼ同じ割合で含まれていると仮定すると、広島原爆(両方加えて14.7E+13ベクレル)の57%となる。

     小出裕章氏が漏出事故直後から指摘しているように[参考文献16]、この汚染水300トンだけで、およそ広島型原爆1個分以上の「死の灰」を含んでおり、それがすでに環境中に漏れたと判断できるのである(表6)。

     参考までに、広島原爆による放射性物質の放出量の推計を付表5に掲げておく(ただし、これは一般に引用される数値であるが、これには「黒い雨」に含まれていた放射性物質の量が十分に評価されていないなど、大きく過小評価されている可能性が高いことも注記しておく)。

     表6 汚染水漏れ300トンに含まれる放射性物質の推定量(総括表)(単位:ベクレル)


     タンク1基(平均容量400トン)が平均して、およそ原爆1〜2発分の「死の灰」を抱えていることになる。タンクは現在約1000基あるが、それらに含まれる「死の灰」を考えれば、文字通り「死のタンク群」なのである。つまり事故原発は、文字通り爆弾を、正確には核爆弾を抱えているのである。

    (2)チェルノブイリ事故による放出量との比較

     もっと深刻な問題がある。溜まり続けている高濃度汚染水の量である。汚染水の総量は当時33万トンだったが、2014年4月5日の日本経済新聞によると、現在では48万トンたまっているという。

     ということは、もし、他のタンクにおいても放射性物質の濃度が昨年8月に流出した汚染水と同じ水準にあると仮定して計算すると(比重は簡略化のために水と同じ1とする)、4.8E+8リットル(48万トンのリットル換算)×2.8E+8ベクレル(東電発表の濃度)となり、全タンク中には、現在、合計しておよそ13.4E+16(すなわち京)ベクレルの放射性物質が溜まっていることになる(主としてセシウム137とストロンチウム90であろう)。

     すなわち、タンクに溜まっている汚染水の中だけで、国連科学委員会によるチェルノブイリ事故の推計放出量(セシウム137で8.5E+16、ストロンチウム90で1.0E+16、合計で9.5E+16)を大きく越えており、その約1.4倍になっていることになる。サムナー推計(セシウム137で3.8E+16、ストロンチウム90で0.8E+16、合計で4.6E+16)では、2.9倍となる。

     それはまた、青山氏らの数字による福島事故による汚染水中への漏出分(セシウム137で14E+16ベクレル、ストロンチウム90で0.85E+16ベクレル、合計で14.9E+16ベクレル)とほぼ等しい規模である。

     すでに東京新聞(2013年8月23日付)は、東電の訂正前の数字に依拠して、当時の汚染水量33万トンについて計算を行い、総計で「2京7000兆ベクレル」(東京新聞は切り上げており正確には2.64E+16ベクレル)の放射性物質が汚染水タンク中に蓄積されていることを指摘している。われわれの出した上記の結論は、その数字を、東電の訂正どおり3.5倍し、この間の汚染水の蓄積量の増加率(1.45倍)を掛け、チェルノブイリの数字と比較すれば、容易に導かれるものである。特殊な計算が必要なわけでもない。


    表7 汚染水タンクに溜まっている放射性物質の推定総量の比較(総括表)
                      (単位:記載の無いものはベクレル)


     もちろん、東電の発表した汚染水の濃度には幅がある。2014年2月20日にも100トンの汚染水が漏れたが、この時の放射性物質の濃度は1リットル当たり2億3000万ベクレルと発表されている(これは上記の2億8000万ベクレルに近い)。さらに2014年4月14日には汚染水203トンの誤送水が発生したが、この汚染レベルは1リットル当たりセシウムで3700万ベクレルと報道されている(いずれも日本経済新聞)。これらの数字は、いずれもここで計算に使った2億8000万ベクレルよりは小さい。したがって、タンクに溜まっている放射性物質の総量がチェルノブイリの約1.4倍あるいは2.9倍という結果よりも、これらより小さい可能性があることは言うまでもない。たとえば、これら3つ数字のうち最小である1リットル当たり3700万ベクレルで計算すると、セシウム137の総量は1.8E+16ベクレルとなる。しかしこれでも、チェルノブイリ(国連科学委推計8.5E+16あるいはサムナー推計3.8E+16)の2割以上あるいはほぼ半分であり、日本政府が推定した福島事故での大気中への放出量(1.5E+16)を上回るという著しく巨大な量である。

     「滞留水」は、実際には滞留しておらず、地下水の流入・流出によって絶えず更新されている。だから、もし、タンクに溜まっている放射性物質の総量が、ここで計算した量よりも少ないとすれば、その分、地下水に流失した放射性核種の量および地下水を通して海に流出した量が多いという結論になるだけである。どちらにしても東電に言い逃れる道は残されてない。

    (3)福島事故の現状

     地下水は毎日約400トン流れ込んでおり、メルトダウンしてデブリとなった放射性物質は、日々刻々とその中に溶け込んで行っていると考えられる。東電は毎日それを汲み上げているが、それには広島原爆1個分かそれ以上の放射能が含まれている可能性がある。毎日広島原爆1個分なのだ。大気中への放出ももちろん止まってはいない。汚染水は、汲み上げられてタンクに暫定的に溜められるか、そうでなければ地下水に戻って地下水脈を汚染し、結局海に流れ込んで海を汚染している。これらにより、事故による放射性物質の漏出量あるいは放出量が、現在もなお日々刻々膨れあがっている。すなわち原子炉内の残存量に対する放出率そのものが、気象研グループが採用した2011年5月1日0時時点での滞留水中20%から、現在ではさらに高まっているはずである(西原らによればスリーマイル原発事故では放出率は41〜55%であったという[参考文献10])。また日々刻々上昇して行っているはずなのである。

     間に合わせで作った脆弱な構造のタンクの中に日々積み上がっている汚染水は、今後の余震あるいは新規の地震、地盤の不等沈下あるいは不等隆起(汚染水を減らすための地下水くみ上げや凍土壁によるせき止めによって生じる危険がある)、台風や風水害、その他の自然災害によって何時漏れ出してもおかしくない状況下におかれている。さらに、凍土壁を作るための配管掘削工事自体が、すでに高度に放射能汚染されている上部地下水層から、下部地下水層に汚染を拡大し、海水を汚染する危険があるともいわれる(「汚染水、地中深くまで浸透 凍土壁工期に影響も 福島第1原発」産経ニュース・インターネット版 2014年6月24日)。

     100万人もの犠牲者を出したといわれるチェルノブイリ事故[参考文献13]において漏れ出た量に匹敵するかそれをはるかに越える放射能が、福島事故では大気中に放出された。だが、タンクに溜まっている汚染水だけで、それと同等か何倍も上回る放射能を含んでいる。この冷厳たる事実を直視しなければならない。汚染水をめぐる状況は、極度に危険な、危機的事態にあり、そのほんの一部(300トン)でも漏洩すれば、いとも簡単に広島型原爆の「死の灰」程度の大量の放射能を環境中にまき散らすことになる。大量に漏れるならば、福島事故やチェルノブイリ事故と並ぶ、あるいはそれを上回る放出量になる危険性さえある。さらに意図的・政策的に海洋投棄が行われれば、その影響は計り知れない。

     汚染水を処理するはずの設備ALPSは、故障続きで、まともに機能していない。福島事故原発にあるトリチウム(東電発表では合計で3.4E+15ベクレル、うち汚染水中には8.3E+14ベクレル、毎日新聞2014年4月24日)は、ALPSでも処理できないので、政府は危険性を無視してそのまま海洋投棄や空中放出する計画である。2013年9月2日に原子力規制委員会の田中俊一委員長が外国人記者クラブでの記者会見ではっきりと示唆したように、政府は汚染水を薄めて海洋投棄しようと企図している。政府・東電はこの2014年5月21日から汲み上げた地下水の海洋投棄を強行的に始めようとしている。

     現実の福島原発事故は終わっていないどころか今も続いている。2011年3月の事態さえ、単なる第1回目の大規模放出にすぎないかもしれない。その被曝による深刻な健康破壊の影響が現在進行している(福島の子供の甲状腺ガンの多発[参考文献17]や事故後の人口減少の急加速注5をとってみても明らかである)さなかに、さらに第2第3の大規模放出が迫っている危険性があるといっても過言ではない。原発の重大事故は、その本質からして「終りなき破局」なのである。第1の大放出がすでに大気中・海水中への放出によって世界の人類と動植物と土壌と海洋を汚染したが、そのうえにいまや第2第3の大放出が起こるかもしれない瀬戸際にある。それは主に汚染水を介して、世界の海洋を汚染し、日本だけでなく全世界の人間と生態系に深刻な影響を及ぼすことになるかもしれない。

    ――――――――――――――――――――


    総 括

     総括しよう。以上検討してきたことから、福島事故の放出量は、政府・マスコミの事故直後からの評価のようにチェルノブイリ事故の「10分の1の規模」では決してなく、チェルノブイリ事故のどの推計と比較してもチェルノブイリ事故を上回り、2倍超から20数倍になる可能性が高い。このことは今や明らかである。

     しかも、福島事故自体も収束していないばかりか、福島事故の破壊的影響は進行中であり、汚染水という第2の火種が爆発する危険もいっそう深刻化しようとしている。

     政府や原発推進勢力が人為的につくり出し人々に信じ込ませようとしてきた、福島はチェルノブイリより桁違いに小さい事故であり「すでにコントロール下にある」という偽りの事故像全体が崩壊しつつあるのである。


    注 記

    (注1)青山道夫氏は、引用書籍出版当時、気象庁気象研究所研究官。現在は福島大学環境放射能研究所教授。

    (注2)放出量の各種推計については、推計方法の詳細は公表されていない。ただ、炉内の放射性核種の「残存量(インベントリー)」は、核燃料の稼動履歴(使用期間・状況など)から、ある程度の確度で推計できるであろう。しかしこの議論は、多くの場合、使用済核燃料プールにあった放射性物質が抜けており、この点でも相対的な意味しか持たないことも確認しておかねばならない。青山氏らは、残存量を取り扱った同書第2章では、1〜3号炉内の残存量だけでなく1〜4号機の使用済核燃料プール内の残存量も含めて扱っている。しかし放出量を扱った第5章ではなぜかこの点を無視している。「大気中への放出量」,砲弔い董日本政府はモニタリングポストの数値と放射性降下物の量からコンピュータ・モデルによって推計したとされており、これは過小評価されている可能性が高い。「滞留水中への放出量」△任蓮∪鳥鎧瓩ベースにした資料は、実測値に基づくものであり、最初から意図的に歪められていないかぎり、ある程度の確度があると考えるべきであろう。「海水中への直接の放出量」は、上記レスターらによる数値が、米政府機関の採用したものであり、相対的に信鮴が高いと考えてよいだろう。一般的な議論として、われわれは以下のように結論できる。(1)日本だけではなく世界的なモニタリングのデータを使った推計(例えば大気中への放出についてはノルウェーのストールの推計[参考文献3]など)が、相対的に信用度が高いであろう。(2)各種の違った推計を合わせて検討すれば、大きくは(すなわち桁違いに)間違わないレベルになるであろう。(3)2つの事故(福島とチェルノブイリ)を比較する場合、それぞれは過小評価されていたとしても、対比すれば過小評価はある程度は相殺されるであろう。

    (注3)青山氏らの著作の第2章によれば、使用済核燃料中の残存量(1〜4号機)は189E+16ベクレルである。1〜3号機の炉心残存量70E+16を加えると合計の残存量は259E+16ベクレルということになる。つまり、本文中の放出率を合計残存量に対してもとめる場合、すべて3.7で割らなければならないということである。

    (注4)青山氏は、最近(2014年5月9日)、欧州地学連盟の国際会議で講演し、福島事故の放出量について取り上げたが、共同通信はそれを次のように報道した。「東京電力福島第1原発事故で放出された放射性セシウム137の総量について、福島大学環境放射能研究所の青山道夫教授は9日までに、事故後の観測データを詳細に分析した結果、1万7500〜2万500テラベクレル(テラは1兆)が妥当とする研究結果をまとめ、ウィーンの国際会議で発表した」と。表記の数字は、本論文で使った形に変換すると1.75〜2.05E+16あるいは京ベクレルである。この数字は、ここでの数字と異なり、いままでの日本政府の推計1.5E+16ベクレルを、中央値で27%、最大で37%ほど上方修正した程度とも考えられ、混乱を生じさせるかもしれないので、若干検討しておこう。
      結論から言うと、共同通信のこの「総量」という訳語は、明らかな翻訳上のミスである(もちろんマスコミ側が故意に訳抜けを行った可能性も否定できないが)。なぜなら、同じ共同通信記事の英語版(Japan Times 2014年5月10日所収)では、この部分はThe total amount of radioactive cesium-137 released into the atmosphere and seawater from the crippled Fukushima No. 1 nuclear power plantとなっており、「放射性セシウム137の総量」は明確に「大気中および海水中に放出された」(下線部)と限定されている。間違えようのないこの限定部分が、日本語訳ではなぜか落とされている。明らかに、ここで青山氏は、自分の書籍で引用した´↓のうち、´だけを問題にし、△痢崑變運綯罅廚墨浬个靴織札轡Ε137の量を顧慮していないのである。
     ここで引用されている数字もまた、本論文で検討してきた青山氏らの表[付表2-2]で掲げられている大気中への放出量 覆曚榮本政府発表と同じ)に、青山氏らが引用した直接海水中への放出量をプラスした数字である。青山氏が国際会議で報告した1.75〜2.05E+16という数字は、中央値を計算するとおよそ1.9E+16であり、青山氏らの本書における大気中,板樟楹た綯罩への合計の放出率2.7%(2.2%+0.5%)、放出量に換算すると1.89E+16ベクレルとは四捨五入による誤差の範囲内であり、基本的に同じものと考えられる。青山氏が国際会議において、ここで検討してきた推計を変更したとは考えにくい。
     青山氏が同会議で汚染水中への放出量について言及したかどうかは不明である。報道がないということは、重要ポイントとしては強調しなかったのかもしれない。

    (注5)読売新聞の英語版Japan News 2014年4月17日は、日本の人口減少が2011年以降劇的に加速したことを示すグラフ(下図)を掲載している。震災による死亡者・行方不明者が約2万人あった事実を考慮しても、2011年からの変化はあまりにも衝撃的である。このグラフは、当地で配達されている日本語の本紙(読売新聞大阪版)の方では見つけることができなかった。


    参考文献

    1.Pavel P. Povinec, Katsumi Hirose, Michio Aoyama; Fukushima Accident ― Radioactivity Impact on the Environment; Elsevier (2013)
    2.青山道夫「『人類の4度目の失敗』が引き起こした地球規模の海洋汚染」『世界』臨時増刊『イチエフ・クライシス』岩波書店2014年1月号所収
    3.A. Stohl et al.; Xenon-133 and caesium-137 releases into the atmosphere from the Fukushima Dai-ichi nuclear power plant: determination of the source term, atmospheric dispersion, and deposition; Atmospheric Chemistry and Physics; 2011; www.atmos-chem-phys-discuss.net/11/28319/2011/doi:10.5194/acpd-11-28319-2011
    4.Charles Lester et al.; Report on the Fukushima Dai-ichi Nuclear Disaster and Radioactivity along the California Coast; State of California Natural Resource Agency California Coastal Commission; 2014;
    http://documents.coastal.ca.gov/reports/2014/5/F10b-5-2014.pdf
    5.P. Bailly du Bois et al; Estimation of marine source-term following Fukushima Dai-ichi accident; Journal of Environmental Radioactivity Volume 114, December 2012, Pages 2–9
    http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X1100289X
    6.Lesterらのレポートの紹介(英文)があるENENEWSのウェッブサイト
    http://enenews.com/govt-report-fukushima-already-released-181-quadrillion-bq-cesium-chernobyl-estimated-105-quadrillion-radioactive-material-continue-flowing-ocean-years-fukushima-radionuclides-spread-north-pac
    7.UNSCEAR; ANNEX J Exposures and effects of Chernobyl accident
    http://www.unscear.org/docs/reports/2000/Volume%20II_Effects/AnnexJ_pages%2
    0451-566.pdf
    8.大和田幸嗣、山田耕作、橋本真佐男、渡辺悦司著『原発問題の争点 内部被曝・地震・東電』緑風出版(2012年)
    9.クリス・バズビー著、飯塚真紀子訳、『封印された放射能の恐怖』講談社(2012年)
    10.西原健司ほか著「福島原子力発電所の滞留水への放射性核種放出」『日本原子力学会和文論文誌(2012)』
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/taesj/advpub/0/advpub_J11.040/_pdf
    11.矢ケ崎克馬著「進行する放射線被曝とチェルノブイリ法・基本的人権」市民と科学者の内部被曝研ウェッブ・ページより
    http://acsir.org/data/20121102_yagasaki_n.pdf
    12.矢ヶ崎克馬「年間1ミリシーベルト(mSv)以上の汚染面積は、フクシマの方がチェルノブイリよりずっと広い」『地球の子ども新聞』2012年11月第132号。以下のウェッブサイトで閲覧できる。http://chikyunoko.exblog.jp/
    13.A.V.ヤブロコフ、V.B.ネステレンコ、N.E.プレオブラジェンスカヤ『チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店(2013年)
    14.津旨大輔、坪野考樹、青山道夫、廣瀬勝巳「福島原子力発電所から漏洩した137CSの海洋拡散シミュレーション」(2011年11月)、電力中央研究所・研究報告:V11002
    http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/cgi-bin/report_download.cgi?download_name=V11002&report_cde=V11002
    15.落合栄一郎著『放射能と人体 細胞・分子レベルからみた放射能被曝』講談社(2014年)
    16.小出裕章氏には多くのブログやビデオがあるが、例えば「小出裕章さんが警告『汚染水漏れの脅威は広島原爆の数百発分だ』」ラジオフォーラム2013年10月21日などを参照。
    http://www.asiapress.org/apn/archives/2013/10/21111623.php
    17.津田敏秀「2014年5月19日福島県『県民健康調査』検討委員会発表分データによる甲状腺検診分のまとめ」月刊『科学』岩波書店2014年7月号所収


    付表1-1 福島原発事故による放射性物質の大気中への放出量 日本政府の当初の推計
          2011年4月12日 原子力安全・保安院(当時)の発表

    (出典)「東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所の事故・トラブルに対するINES(国際原子力・放射線事象尺度)の適用について」経済産業省のホームページより
      http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110412001/20110412001-1.pdf


    付表1-2 福島原発事故による放射性物質の大気中への放出量 日本政府の推計改定値

    解析で対象とした期間での大気中への放射性物質の放出量の試算値(Bq)
    出典:原子力安全・保安院(当時)「東京電力株式会社福島第一原子力発電所及び広島に投下された原子爆弾から放出された放射性物質に関する試算値について」2011年8月26日付発表分を同年10月20日付訂正
       http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110826010/20110826010-2.pdf


    付表2−1 青山氏らによるチェルノブイリ事故による放出量(単位ペタベクレル=E+15)

    ・チェルノブイリの放出量の出所はIAEAとなっているが、国連科学委員会の数字(付表4参照)と同じである。


    表2−2 青山氏らによる同福島事故による放出量(単位がE+nで表記されていることに注意、チェルノブイリ表の単位ペタベクレルはE+15である)

    ・青山らは、放出率だけをチェルノブイリと比較していて、放出量での比較を行っていないことが分かる。

    (出所:上記2表とも)Pavel P. Povinec, Katsumi Hirose, Michio Aoyama; Fukushima Accident ― Radioactivity Impact on the Environment; Elsevier (2013) [参考文献1]のP.125〜127


    付表3 レスターらによるカリフォルニア州資源局沿岸委員会のレポートによる福島の放 出量の総括表
    出典:参考文献4参照

    付表4 国連科学委員会の報告によるチェルノブイリの残存量と放出量の推計表



    出典:参考文献7参照

    付表5 広島原爆による放射性物質の放出量 代表的な推計

    原子力安全保安院(当時)の推計、経済産業省のホームページより
     http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110826010/20110826010-2.pdf


    付表6  ネバダ核実験場における地上核実験での核爆発の総出力

    *Wikipedia「核実験の一覧」には数字の記載がないので、同「ストラックス作戦」のページより計算した(幅のある数字は最大値を採った)。
    (出典)Wikipedia「核実験の一覧」および「ストラックス作戦」の項目よりわれわれが計算。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B8%E5%AE%9F%E9%A8%93%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E4%BD%9C%E6%88%A6
    原資料は各ウェッブ・ページを参照のこと。





    本記事は
    福島事故による放射能放出量はチェルノブイリの2倍以上――福島事故による放射性物質の放出量に関する最近の研究動向が示すもの

    です。

    参照
    福島事故による放射能放出量はチェルノブイリの2倍以上――福島事故による放射性物質の放出量に関する最近の研究動向が示すもの
    補論1 福島原発事故によるヨウ素131放出量の推計について――チェルノブイリの1.5倍に上る可能性




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