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2014.11.30 Sunday

福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(1/4)

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    2014年11月

    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性
    ――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性
    (1/4)

    渡辺悦司 遠藤順子 山田耕作     2014年10月13日(2014年12月18日改訂)


    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(No.1) (26ページ,p1-p26,1953KB,pdf)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(No.2) (45ページ,p27-p71,1614KB,pdf)


    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(2/4)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(3/4)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(4/4)

     
     この小論の目的は、各研究機関や大学の研究者たちによってすでに発表されている研究成果に基づいて、また民間市民団体などの調査によって明らかにされている事実に基づいて、福島第1原子力発電所の事故により放出された放射性物質の微粒子形態を分析し、放射性微粒子(一般に「ホットパーティクル」と呼ばれている)が人体に侵入する経路と内部被曝によって人体に及ぼす特別の危険性を解明することにある注1
     チェルノブイリ事故では、事故後2年半が経過した頃から、健康被害が急速に顕在化したといわれている。アメリカの週刊誌『タイム』は、チェルノブイリ事故四周年にあわせて、ウクライナ汚染地区の医師を取材している。その証言は、「過去18ヶ月間に」(すなわち事故から2年半経過したとき以降)、 峭綻腺疾患、貧血症、がんが劇的に増加した」、◆崕嗣韻蓮極度の疲労、視力喪失、食欲喪失といった症状を訴え始めている」、「最悪のものは、住民全体の免疫水準の驚くべき低下である…健康な人々でさえ病気が直りきらずに苦労している」、ぁ峪匐,燭舛最悪の影響を受けている」というものであった注2
     その経過をたどるように、現在福島第1原発事故から3年半以上が過ぎ、福島と日本各地において事故による健康被害が広範囲に顕在化しつつある。メルトダウンと放射性物質の放出から始まり、内部被曝による健康被害にいたるまでには一連の過程がある。その経路を可能な限り具体的かつ全面的に解明することが、今ほど重要になっている時はない。われわれの論文が「被曝の具体性」(矢ヶ崎克馬氏)を明らかにする共同作業の一環を担うことができ、福島原発事故の放射能による健康被害を明らかにするための一助となれば幸いである。

     われわれは、経済学者、医師、物理学者からなるチームであるが、本論文を作成するに当たり、各方面の多くの方々から協力や情報提供をいただいた。数値計算が専門の「市民と科学者の内部被曝問題研究会」小柴信子氏には、重要な図の作成やデータの加工などで論文作成にご協力いただき、加えて貴重なご意見や情報を提供していただいた。薬剤師の渡辺典子氏には、本論文に関わる薬学・医学関係の内容を提供していただいた。生物無機化学者であり同研究会員でもある落合栄一郎氏には、重要な論点について討論していただき、意見を寄せていただいた。そのほか、産業医学センターの広瀬俊雄医師、神戸大学の山内知也教授には、われわれの問い合わせに快く回答をいただいた。とくにご協力いただいた方々をここに特記して深く感謝の意を表します。もちろん、本論文の内容についての責任はすべて筆者らにあることはいうまでもありません。


    目 次                                    (ページ)

    1.放出された放射性微粒子に関する主要な研究成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

     1−1.予備的考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
      1−1−1.放出の諸形態 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
      1−1−2.炉心溶融の温度メカニズム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
      1−1−3.微粒子形成の条件としての超高温――再臨界 ・・・・・・・・・・・・ 7
      1−1−4.放射性微粒子の諸形態および形成諸過程 ・・・・・・・・・・・・・・ 9
     1−2.観測時期ごとの研究の概観 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
      1−2−1.事故がピークにあった2011年3月14/15日、3月20/21日に採取された
            サンプルに基づく分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
      1−2−2.同じく2011年3月14/15日に採取されたサンプルに基づく分析(つづき) 12
      1−2−3.爆発後の2011年4月4日から11日までに採取されたサンプルに基づく分析 13
      1−2−4.2011年4月28日から5月12日までに採取されたサンプルによる分析 ・・ 14
      1−2−5.2011年6月6〜14日および6月27日〜7月8日に採取された土壌の調査  ・ 16
      1−2−6.事故のピークを過ぎた2011年7月2日から8日までに採取されたサンプル
            の分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
      1−2−7.2012年頃から現在まで:「黒い物質」と呼ばれている黒色の粉塵 ・・ 19
     1−3.以上から導かれる結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

    2.放射性ガス・微粒子の人体内への侵入経路 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22

     2−1.タンプリン、コクランによる問題提起 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
     2−2.1969年の日本原子力委員会(当時)の報告書 ・・・・・・・・・・・・ 22
     2−3.内科学および薬学の教科書による肺内沈着の説明 ・・・・・・・・・・・・ 25
      2−3−1.『内科学書』(中山書店)の叙述 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
      2−3−2.吸入薬の使用法についての薬剤師向け教科書の記述 ・・・・・・・・ 25
     2−4.肺内に沈着した放射性微粒子による内部被曝の危険 ・・・・・・・・・・・ 27
     2−5.とくにナノ粒子の危険 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
     2−6.放射性微粒子による内部被曝の特殊性、集中的被曝とその危険 ・・・・・・ 29
     2−7.放射線の直接の作用と活性酸素・フリーラジカル生成を通じた
         作用(「ペトカウ効果」) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
      2−7−1.放射線の直接的影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
      2−7−2.放射線の間接的影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
       2−7−2−1.生物無機化学からのアプローチ ・・・・・・・・・・・・・・ 32
       2−7−2−2.医学からのアプローチ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
               [がんをはじめ広範な疾患を引き起こす] ・・・・・・・・・ 33
               [心臓疾患] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
               [白内障] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
               [精神障害] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37
       2−8.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

    3.再浮遊した放射性微粒子の危険と都心への集積傾向 ・・・・・・・・・・・・・・ 38

     3−1.福島など高度の放射能汚染地域における疾患の増加 ・・・・・・・・・・・ 38
     3−2.東京圏における放射性微粒子による汚染 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 41
     3−3.東京圏への汚染集積の諸要因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
      3−3−1.福島事故原発の工事による放射性物質の放出  ・・・・・・・・・・ 45
      3−3−2.焼却施設からの放射性物質の放・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
      3−3−3.物流・交通機関による放射性物質の運搬と集積 ・・・・・・・・・・ 46
     3−4.東京圏住民の健康危機の兆候は現れ始めている ・・・・・・・・・・・・・ 47
      3−4−1.がん発症の増加 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
      3−4−2.白内障と眼科疾患の増加 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
      3−4−3.住民とくに子供たちの健康状態の全般的悪化と免疫力の低下 ・・・・ 53
     3−5.精神科医の見た原発推進政策の病理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54

    4.おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55


    注 記 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56



        1.放出された放射性微粒子に関する主要な研究成果

      1-1.予備的考察

     福島原発事故自体についても、事故による炉心溶融(メルトダウン)と爆発、放射性物質の放出についても、その詳しいメカニズムは解明されていない。それだけでなく、政府も東電も、事故に関する基本的な重要データの多くを公表していない(例えば中性子線量の経時変化)。放射性粒子の形成と飛散についても事情はおなじである。このような状況下ではまず、事故過程について予断を持たずに、政府側を含めた各研究機関が公表している研究とそこで観測された事実を多少詳しく概観しておく必要がある。ただその前に、予備的に次の点を確認しておこう。

     1-1-1.放出の諸形態

     事故原発からの放射性物質の放出には、少なくとも3つの形態(大気中・汚染水中・直接海水中)がある注1が、ここでは大気中への放出のみを問題にする。福島から大気中に放出された放射性物質は、種々の形態を取っており、その主要なものは、


    ①破砕された燃料棒および炉構造材のがれき、破片、粉塵(ミリ単位以上)
    ②微粉塵あるいは微粒子(ミクロンμm単位およびナノnm単位)
    ③気体(ガス)


    であった。①については、その多くが原発敷地内かその数キロ程度の範囲内注3に落下した可能性が高いが、強風など気象条件によっては遠方に飛ばされる可能性もあり、きわめて危険で重要な放出形態であるが、ここでは取り扱わないこととする。広範囲に飛散した②③だけに問題を限定する。また気体③として出たものが冷やされて微粒子②に変化した条件も考察する。

     1-1-2.炉心溶融の温度メカニズム

     まず、放射性微粒子がどのような経路で形成されたかを考えてみよう。出発物質の相が固体・液体・気体であるかによって、いくつかの過程がありえる。


    ①燃料棒が固体のまま爆発によって物理的に破砕されて放出される
    ②燃料棒が溶融して液状となり、爆発によって噴き上がり、霧吹きのように飛散する
    ③高温になって気化した放射性物質が爆発あるいは漏洩によって放出され、その後に大気中で冷却されて微粒子が形成される


    が考えられる。
     われわれの見解では、おそらく①②③の過程がすべて程度の差はあれ現実に生じたが、それらの重要性の度合いを現段階で確定することはできないように思われる。
     ,砲弔い討僚斗廚併実は、炉心溶融過程が初期段階で通過する温度においてすでに、燃料ペレットが固体のまま「微粉化する」という実験結果である注4。炉内で何らかの爆発があれば、まだ溶融していない核燃料とそこに含まれる放射性物質は、そのままで微粒子として放出されることになる。他方、②の重要性が前面に出るのは、溶融物の塊の内部で爆発(おそらく核爆発)が生じるような場合、あるいは溶融物が溜まった水に落下して水蒸気爆発が生じ、それが溶融物を一気に噴き上げるような場合であろう。③については、さらに広く生じた可能性が考えられ、爆発によっても、また爆発がなくても破断部から漏洩したりすれば生じ、また人為的なベントでも生じる。金属が気化した後微粒子として固化・沈着する現象は、実感しにくいかもしれないが、溶接などの場合に現実に生じており、保護されていない溶接作業者に深刻な微粉塵被害を及ぼしている。他の例は、劣化ウラン弾の戦車装甲板への着弾である(この点は後述する)。
     主要各元素の炉内での存在状態を表1-1に、炉心溶融に関連する各元素の溶融の温度プロセスを図1に、結果として生じた事態のまとめを表1-2に、それぞれ掲げてある(表1-1/1-2は佐藤修彰氏の論文注4を参照した)。

    表1-1 溶融発生前の炉心における燃料内の燃料および核分裂生成物の存在状態

    出典:佐藤修彰(東北大学多元物質科学研究所)
    「福島原発事故における燃料および核分裂生成物の挙動」
    http://www.applc.keio.ac.jp/~tanaka/lab/AcidRain/%E7%AC%AC35%E5%9B%9E/1.pdf
    注1:スカンジウム,イットリウム,ランタン,セリウム,プラセオジム,ネオジム,プロメチウム,サマリウム,ユウロピウム,ガドリニウム,テルビウム,ジスプロシウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム,ルテチウムからなる
    注2:アクチニウム,トリウム,プロトアクチニウム,ウラン,ネプツニウム,プルトニウム,アメリシウム,キュリウム,バークリウム,カリホルニウム,アインスタイニウム,フェルミウム,メンデレビウム,ノーベリウム,ローレンシウムからなる
    注3:カルシウム,ストロンチウム,バリウム,ラジウムからなる
    注4:チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ラザホージウムからなる
    注5:リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムからなる

    図1 炉心溶融の温度メカニズム(温度は絶対温度Kで表されている)

    (注意)K = ℃+273.15 あるいは ℃ = K−273.15である。
    工藤保「原子炉の炉心溶融」日本原子力開発機構(2011年6月6日)より引用した。
    http://jcst.in.coocan.jp/Pdf/20110606/1_CoreMeltDown.pdf

     炉心溶融については以下の点を確認できる(事故過程の分析には立ち入らない)。
     炉心溶融は、一般に言われているような一挙に生じる現象としてではなく、温度上昇につれて生じる一連の具体的過程としてとらえるべきである。450℃で燃料ウランペレットは酸化が進み微粉化する。500〜800℃でセシウムなどアルカリ金属酸化物が気化する。900℃付近で(600℃付近から生じるとする説もある)被覆管のジルコニウムと水蒸気が反応して水素を生じるとともに被覆管を破損する。核燃料の温度は、まずジルコニウムの融点である1855℃(2028K)を越え(ジルコニウムが酸化していない場合、ジルコニウムが溶融すると二酸化ウランは共に溶解する)、さらに二酸化ウラン・酸化ジルコニウム共晶(ジルコニウムが酸化している場合)の融点である2527℃(2800K)を越え、あるいは二酸化ウラン単体の融点2865℃(3138K)に達しそれを超えたと思われる注4
     炉内での核反応を止める役割を果たした制御棒(銀・インジウム・カドミウム合金)は、燃料棒よりも顕著に低い温度827℃(1100K)で溶融し、燃料棒よりも時間的に早い段階で溶け落ちてしまっていたことになる。すなわち、メルトダウンの進行の早い段階で原子炉内には、再臨界への歯止めがない状態が生じていた可能性が高いということである注5
     炉心溶融を引き起こした熱源は、主に、核燃料の崩壊熱と考えられてきたが、合わせて水・ジルコニウム反応による発熱も考えられている注6
     地震による配管の破断やメルトスルーによって原子炉が破損し炉の密封性が喪失したので、キセノンなどの希ガスは空気中に飛散した。沸点の低い放射性物質は気化してガス状となった(ヨウ素[沸点184℃]、セシウム[沸点671℃]は制御棒が溶け落ち始める以前に、ストロンチウム[沸点1382℃]は被覆管が溶け始める以前に)。
     炉心溶融の後に生じた爆発は水素爆発とされているが、それだけではない可能性が高い。溶融炉心が溶け落ちて(メルトダウンして)水蒸気爆発が生じ炉心溶融物が吹き上げられたことも考えられ注7、また炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素・一酸化炭素爆発が生じた可能性も指摘されている注8
     後述するが、最近、事故当時採取された放射性微粒子が、セシウムだけでなく、ウラン、ジルコニウム、モリブデンなどの原子を均一に含む合金・ガラス状の球体であることが解明された。このような配列は、爆発によってあるいは炉心溶融物内で、温度がメルトダウンの温度(上記2865℃)を大きく超えて上昇した可能性が高いことを示している。
     水素爆発の火炎温度は、空気との反応で2040℃でしかなく注9、このような高温を生じることができない。

    1-1-3.微粒子形成の条件としての超高温――再臨界

     それができるのは核爆発・再臨界だけであると考えるのが自然であろう。微粒子の分析の結果によれば、再臨界あるいは核爆発が生じていたであろうことは、ほぼ否定できない(とくに3号機、おそらく1号機も)といえる注10。この結論は、原子炉建屋上部の鉄骨が溶けて曲がりさらには溶け落ちるほどの熱が生じていたこと、爆発の前後に中性子線が観測されていたこととも合致する(爆発時の中性子線はその有無も線量も公表されていない)。
     おそらく各種の爆発(再臨界=核爆発、水素爆発、一酸化炭素爆発、水蒸気爆発)が、重なり合って生じたか、あるいは別々に何回にも渡って生じた(東電が公表していない爆発事象も含めて)と考えるのが自然であろう。また大規模な爆発にいたらない部分的な再臨界も生じていたかもしれない。爆発の各形態を対置・対立させて考え、あれかこれかという議論をするのは、合理的ではない。爆発形態が一つだけということは考えられず、また一つの爆発形態の存在が他の爆発形態の存在を否定する(あるいはその可能性を排除する)論拠にはならない。
     放射性微粒子の中に検出されたこれらの放射性核種および原子炉構成物質は、この高温によって気化した可能性が高いと考えるべきであろう(表1-2)。これらは、希ガスやヨウ素の大半を除き、大気中で冷却されて固体に戻り、集まって微粒子を形成し、さらに高温のプルーム中で、焼鈍された注11と考えられる。これらの点で、福島事故で放出された放射性微粒子は、劣化ウラン弾の着弾時に生じる超高温中(最高6000℃にまで達するとされる)で形成・放出される放射性微粒子と類似しているといえる注19

    表1-2 炉心溶融・破損後の燃料および核分裂生成物の挙動(佐藤修彰氏による)

    注記:佐藤氏はウラン等の「影響」を「サイト内および近傍」としているが、
    それにとどまらないことが明らかになっている(後述)。
    ハロゲン:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンからなる
    出典:佐藤修彰(東北大学多元物質科学研究所)
    「福島原発事故における燃料および核分裂生成物の挙動」
    http://www.applc.keio.ac.jp/~tanaka/lab/AcidRain/%E7%AC%AC35%E5%9B%9E/1.pdf

     1-1-4.放射性微粒子の諸形態および形成諸過程

     放出された放射性微粒子にも多くの種類および形成過程がある。そのうち確認されているのは、
     ①爆発によって形成された合金状・ガラス状の粒子(およそ粒径2μmとされる)
     ②大気中に浮遊していたいろいろな粒径の既存のエアロゾルに放射性物質が付着して形成された微粒子
     ③微粉化した核燃料あるいは炉心溶融物が噴出した放射性微粉塵
     ④再浮遊した放射性微粒子やがれき・ごみ焼却による粉塵などが加わった二次的三次的な再飛散微粒子
    などである。
     以下に、福島原発事故から放出された放射性微粒子に関して今までに観測されている主要事実を、観測時期順に、簡単に概観してみよう。

      1-2.観測時期ごとの研究の概観

     1-2-1.事故がピークにあった2011年3月14/15日、3月20/21日に採取されたサンプルに基づく分析

     気象庁気象研究所の足立光司氏らは、事故原発から170km南西の地点(同研究所、茨城県つくば市)において大気中の微粉塵を採取し、そこを通過した2つのプルーム(放射能雲)――2011年3月14/15日および3月20/21日――から微粒子を採取し、第1プルームのサンプル中に、セシウム(134および137)を含む球状の微粒子を発見した注12。この第1プルームは3号機の爆発によって生じたものと考えられる。これらの粒子は、鉄・亜鉛を含有し、微粒子の内部ではこれらの元素が均一に分布しており(evenly distributed within the particle)、合金(alloy)を形成していると判断された。さらに、塩素・マンガン・酸素・ケイ素などもわずかな量で含んでいた。微粒子は、乾性の固体であり、水に対しては不溶性であった。粒径は、他の捕捉微粒子に比較して大きく、約2μm(2.0および2.6μm)であった。
     矢ヶ崎克馬氏は、これらの事実から、次のように推論している。
    (1)福島原発で見られた爆発がこれら元素の沸点を超える「非常な高温」を伴っていたこと、すなわち「水素爆発ではなく核分裂」であったこと、
    (2)通常微粒子は沸点の高い原子から芯が形成され沸点の低い原子は外側にくっついていく形で生じる(成層構造になる)ので、微粒子内部の元素配置が均一になるためには、爆発の中で形成された粒子が外部放出されるまでに500〜1000℃程度の温度領域に分単位で保たれ「焼鈍」されて均質化したのではないか、と注13
     われわれもこの指摘の通りであろうと考える。このような焼鈍が生じる条件もまた、核爆発による高温のプルームの内部において、あるいは溶融した核燃料の高熱によって生じたと考えられる。
     他方、第2プルームから採取された微粒子は、以下に述べる兼保氏らの粒径分布に近く、しかも可溶性であった。足立氏らは、兼保氏の推論(後述)に従って、大気中にある硫酸塩エアロゾルにセシウムが付着したものであろうと評価している。
     足立論文は3月11日から30日の間に捕捉された微粒子の粒径分布(原書S1およびS2、下図2-1および2-2)を掲載している。そこでは、直径2μmよりも小さな粒子、多くはサブミクロンサイズの粒子の数が圧倒的に多いことが示されている。この中には、足立氏が発見した粒径2μmよりも小さいサイズの「合金状」微粒子が含まれている可能性がある。これは非常に重要なポイントであるが、同論文では(一般に公開されている部分で見る限り)この粒径の小さい微粒子に含まれる放射性物質について、独自の分析はなされていないようである。

    図2−1.エアロゾルの粒径ごとの数 捕捉数は2μm-、1-2μm、0.5-1μmごとに約10倍程度多い
     
    引用者注記:3月15日前後のデータの不連続は、地震(余震であろう)による電源供給の不安定(停電のことと思われる)があり機器が作動しなかった結果であると説明されている。

    図2−2.足立氏が挙げている3月16日から30日における7〜289nmのエアロゾルの粒径分布の図

    橙色の部分が粒子の多い部分である。直径20〜100nm付近の粒子が多いことがわかる
    出典 Kouji Adachi, et al; Emission of spherical cesium-bearing particles from an
    early stage of the Fukushima nuclear accident; Supporting Information S1 and S2
    http://www.nature.com/srep/2013/130830/srep02554/extref/srep02554-s1.pdf


     1-2-2.同じく2011年3月14/15日に採取されたサンプルに基づく分析(つづき)

     東京理科大学の阿部善也氏らの研究チーム(足立氏も参加した)は、上記3月14/15日に採取された球形セシウム含有微粒子(「セシウムボール」粒径約2μm)を、シンクロトロン放射(兵庫県にある大型の放射光施設「スプリング8」)によって分析し、球状の微粒子中に核燃料由来のウランを発見した注14
     また彼らは、同微粒子中に、下図3(原著 Figure S4)に由来を示した各元素が含まれることを発見した。またその中には、原子炉を構成する鉄だけでなくケイ素も含まれていた。このことは、メルトダウンした核燃料が原子炉を溶かし、さらには原子炉格納容器下部のコンクリートと反応を生じたことを示唆している。彼らは、このようなセシウムボールが、高酸化状態で(high oxidation state)、すなわちFe3+、Zn2+、Mo6+、Sn3+などがガラス状マトリックスの形で、存在していることを突き止めた。彼らによれば、このような「ガラス状(glassy state)」の放射性物質は、水溶性のセシウム・エアロゾルとして放出されたものに比較して「長期間環境中に残存するであろう」という。
     非常に重い元素である福島事故由来のウランが、172kmも離れた関東平野で発見されたことは、微粒子による放射性物質の飛散がきわめて広範囲に及ぶことを示した。重力は粒子の半径rの3乗に比例し、浮力を与える摩擦力はストークスの法則で粒子半径rの1次に比例する。粒径が小さくなると浮力が支配的になり、それ故、重さに依らず遠くに飛ぶからである。

    図3 放出された放射性微粒子に含まれる元素の由来(阿部氏らによる)

    引用者注:冷却水中の亜鉛Znは、配管の腐食防止剤として使われる。
    出典 Yoshinari Abe, et al; Detection of Uranium and Chemical State Analysis of
    Individual Radioactive Microparticles Emitted from the Fukushima Nuclear Accident
    Using Multiple Synchrotron Radiation X-ray Analyses; Analytical Chemistry
    http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ac501998d


     1-2-3.爆発後の2011年4月4日から11日までに採取されたサンプルに基づく分析

     国立環境研究所の大野利眞氏らは、つくば市における4月4日から11日までの観測に基づいて、大気中の放射性ヨウ素131、セシウム134および137の粒径分布を推計している(図4)注15。それによれば、ヨウ素131は、ほとんどがガス状で、一部が微小粒子であり、1μm以下の微粒子もかなり多い。セシウムは、図4で見ると、2.5μmあたりにピークがあり、3.3μm以下の微粒子であった部分が多い。大野氏らによれば、ヨウ素131はほとんどが乾性沈着(大気乱流や重力沈降により地表面に沈着)したのに対し、セシウム137は湿性沈着(雨滴の核になったり降雨に付着して雨とともに地表に落下)が「支配的である」という。

    図4 粒径ごとの放射能の分布

    (ACFは活性炭繊維フィルターに吸着されたガスの放射能量)
    出典:国立環境研究所「放射性物質の大気輸送・沈着 シミュレーションの現状と課題」
    http://nsec.jaea.go.jp/ers/environment/envs/FukushimaWS/taikikakusan1.pdf


     1-2-4.2011年4月28日から5月12日までに採取されたサンプルによる分析

     産業技術総合研究所の兼保直樹氏は、上記環境研究所グループに続く時期(2011年4月28日から5月12日まで)に、同じくつくば市の同研究所において、大気中の放射性微粒子を吸引捕集し分析を行った注16。それによれば、この時期には、すでに相対的に粒径の大きな微粒子は大きく減少し、とりわけ大野氏の発見した粒径2μm付近のピークは消えてしまっている。兼保氏らによれば、採取された放射性微粒子は粒径0.2-0.3μmと0.5-0.7μmに極大値を持つ「二極性の特徴的な分布」を示したとされる(図5)。

    図5 放射性セシウムを含む粒子およびエアロゾル主要成分の粒径分布

    茨城県つくば市におけるA:2011年4月28日〜5月12日の放射性セシウムを含む粒子の粒径分布、なめらかな曲線は計算により本来の粒径分布を復元したもの。B:同期間の大気エアロゾル主要成分ごとの粒径分布(ケイ素のみ上軸)。
    Δは微少な変化量を表す。
    出典:兼保直樹「風に乗って長い距離を運ばれる放射性セシウムの存在形態
    ――大気中の輸送担体を解明」の図1より
    http://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/nr20120731/nr20120731.html

     さらに兼保氏は、放射性セシウムは「単独ではこのような粒径分布の粒子は形成できず、大気中に比較的豊富に存在する何らかの大気エアロゾル成分の粒子に付着するか含まれた状態で浮遊していた」と推論した。兼保氏は、このような放射性セシウム粒子の粒径分布(図5左)と同時に観測された他の主要物質の粒径分布(図5右)とを比較し、硫酸塩エアロゾルが放射性セシウムの輸送担体であろうと推定している。この点について、上記足立氏らは、すでに足立氏らが採取した3月20/21日の第2回目のプルームにおいてこのような傾向が出現していることを指摘して、兼保氏の推測を積極的に評価している注12
     しかし、常識的に考えて、硫酸塩だけではなく、いろいろなイオンにも、少なくともほぼ同じ分布を示していたアンモニウムイオンや、一部は硝酸イオンにも、付着していたと考えるのが自然ではないだろうか。また、2μmより小さいサイズの合金状あるいはガラス状の球状微粒子が放出された可能性も、否定できないであろう。
     一見して明らかなのは、兼保氏の粒径分布では、大野氏らの観測結果にあった2μm付近にあったピークがなくなっていることである。これは、観測地点がほぼ同じであることを考慮すると、観測時期の違いによるものが大きいと思われる。兼保氏の観測結果は、4月末以降の時期にはすでに粒径の大きな、おそらくは1-2-1および1-2-2で見た、事故初期の爆発に由来する微粒子の大部分がすでに沈着するか飛散してしまっていたことを示唆している。

     1-2-5.2011年6月6〜14日および6月27日〜7月8日に採取された土壌の調査

     別なテーマであるが、文部科学省は、2011年9月30日、福島事故由来であると確認できるプルトニウム(238および239+240)が、原発から最大45km離れた福島県内各地の土壌から発見された、と発表した注17。きわめて重い元素がこのような長い距離を飛んでいることから、プルトニウムは微粒子として飛散したと考えられ、プルトニウムの微粉塵あるいはプルトニウムを含む微粒子が広範に飛散したことは、疑いえない。しかも、この調査によれば、プルトニウム238単独では、茨城県と福島県の80km圏を越える4地点でも検出されており、これらについて政府は事故由来であることを認めていない。しかし事故原発からプルトニウムが流れた方向の4km程度のごく近傍でも、プルトニウム238しか検出されていない地点もあり、政府の評価はきわめて疑問である。プルトニウムが45kmよりもさらに広く飛散した可能性が高いというべきである。
     ちなみに、米国環境保護庁(EPA)のデータは、グアム、サイパン、ハワイ、米本土のカリフォルニア州やワシントン州において、2011年3月15日〜24日にかけて、環境中の放射性物質の濃度が、突然、統計が記載されている過去20年間になかったレベルに急上昇したことを示している。その中にはプルトニウム239、ウラン238、ウラン234も含まれており、福島原発から放出されたものと見られている注17
     ストロンチウム(89および90)については、日本政府の調査は80km圏に広く飛散している状況を示している。この飛散も、ストロンチウムが微粒子となっていたことを示している。しかし、この場合も、政府は両方の同位体が検出された地点のみを事故由来としており、ストロンチウム89の半減期が約50日と短く、測定までの期間(土壌採取が事故の約3ヶ月後なのでそれ以上)に測定限界以下に減衰していた可能性を考慮すると、評価には上と同じ疑問が残る。
     このように、セシウムやヨウ素と並んで最も危険な放射性核種のうちの2種、アルファ線を出し毒性が強く半減期(Pu239で2.4万年)も生物学的半減期(同200年とされる)もきわめて長いプルトニウムと、ベータ線を放出し半減期がセシウムと同様に長く(Sr90で29年)骨に蓄積して生物学的半減期がきわめて長く(同49年)いったん体内に取り込まれると生涯にわたる内部被曝を引き起こすきわめて危険なストロンチウムとが、微粒子として広範に放出されたことは、政府の調査結果によって証明されている。

     1-2-6.事故のピークを過ぎた2011年7月2日から8日までに採取されたサンプルの分析

     小泉昭夫氏(京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野)ほかによるセシウム粒子の分析は、明らかに事故のピークが過ぎたと考えられる時期(2011年7月2日から8日)に、事故原発に近く汚染が深刻な福島市内(北緯37°45'42"・東経140°28'18")で行われた注18。その結果は、4.9-7.4μmと0.7μm未満(0.46-0.7μmおよび0.47μm未満)という2つのピークをもつ粒径分布を示している(表2)。また放射性微粒子のうち、数では67%、放射能量では77%が、肺内に沈着する可能性の高い粒径5μm未満の粒子である点も重要である。

    表2 福島県における大気中放射性セシウムの粒度分布と経気摂取量推定

    出典:小泉昭夫氏(京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野)ほか「福島県成人
    住民の放射性セシウムへの経口、吸入被ばくの予備的評価」表3より筆者作成
    http://hes.med.kyoto-u.ac.jp/fukushima/EHPM2011.html

     上記の兼保氏の分析を踏まえれば、次の点が確認できる。
     大きい方のピーク(4.9-7.4μm)は、大気中に圧倒的に多い、土壌の主成分であるケイ酸の粒径分布に類似しており、土壌に沈着した放射性微粒子が再浮遊し飛散した可能性を示唆している。すなわち、この分布は、すでにこの時期には、事故原発からの一次的な放出が続いていただけでなく、放射性微粒子の再浮遊(resuspension)が本格的に始まっていたことを示していると考えることができる。
     ピークではないが2μm前後の粒径も1割程度を占めており、福島市のような汚染が深刻な地域においては、足立氏が発見したセシウム・ウランを含むボール状微粒子もまた広く再浮遊していた可能性も否定できないであろう。
     2つのピークのうち小さい方の0.46-0.7μmおよび0.46μm未満のピークは、兼保氏が指摘した粒径分布(1-2-4)にほぼ等しいが、全体の放射能量の半分を占めている。1.1μm未満で見れば約6割を占めている。サブミクロンあるいはナノレベルの微粒子が過半であると推定できる。これは劣化ウラン弾の爆発によって放出される放射性微粒子のサイズである。すなわち福島事故が放出した放射性微粒子の健康影響は、劣化ウラン弾による健康影響と比較可能であることを示している注19

     1-2-7.2012年頃から現在まで:「黒い物質」と呼ばれている黒色の粉塵

     2012年ごろから、強い放射線を放出する黒色の粉末状物質の目撃情報が、福島県南相馬市、東京都内各地などで相次いでいる注20。この現象は現在でも観測され続けている。この現象は十分に解明されていない。また、法律上「放射性同位元素」としなければならないほど強い放射線を出すことが判明しているにもかかわらず、公的機関による本格的調査も行われていない。この「黒い物質」と呼ばれる粉末には、性質の違う2種類の微粒子があることが分かっている。一つは、鈴木三男東北大学教授や山内知也神戸大学教授が分析した「藻類」によってセシウムイオンが生物濃縮された粉体、もう一つは、早川由紀夫群馬大学教授が分析した「風雨による集積」の結果生じた粉体である。植物由来か鉱物質かの判断は間違いようがないので、2つの種類の「黒い物質」があると考えるのが自然であろう。
     両者とも強い放射線を発し、山内氏によれば、南相馬で採取されたサンプルの最高は1kgあたり340万ベクレル、東京で発見されたものの最高は24万ベクレルの放射性セシウムが検出されたという注21
     早川氏によれば、黒い塵は「風雨の作用で地表のセシウムが寄せ集められた土」であり、ビルやアスファルトなど「人工構造物に取り囲まれた都市では容易に起こる」という注22。われわれが見てきたように、放射性物質が最初から個々の原子レベルではなく微粒子として放出されたという事実を考慮すれば、このようなサイズの大きな粒子への集積は容易に説明できるであろう。
     他方、山内氏は、調査したサンプルについて、足立氏の発見した放射性微粒子(1-2-1記載)とは「直接の関係はないと考えられる」という。平均粒径については、藻類は割れば細かくなるので、粒径は測定しなかったとのことである(山内氏からの私信による)。早川氏についても粒径を明確に規定している資料を見いだすことができなかったが、数十から数百μmで、われわれが上で検討してきた微粒子よりはかなり大きいと思われる。ただ重要なのは、山内氏の指摘するように「藻類なので踏みつぶせばいくらでも細かくなる」点で、時間的経過と共に微粒子化し、肺沈着の可能が高い5μm以下の粒径に変化していく危険がある。
     原子力発電の専門家から反原発活動家に転じたアーニー・ガンダーセン博士とボストン化学データ社の社長で放射性同位元素についての専門的研究者であるマルコ・カルトフェン氏は、事故原発から17km(放送のスクリプトでは10kmだがおそらくマイルの誤植であろう)離れた福島県浪江町で採取した塵の放射線分析を行い、それが直接に核燃料に由来する「ホットパーティクル」であることを発見した。その分析結果はインターネットで公開されている注23。それによれば、粉体は、粒径2〜10μm、均質で一様な(homogenous and uniform)粒体で、150万ベクレル/kgという強い放射線を発し、セシウム137と134だけでなく高濃度のラジウム226が含まれていた(トリウム、鉛チタン酸塩、イットリウム・ランタン化合物、コバルト60も含まれていた)。鉛・希土類を含む微粒子の中には、粒径1〜2μmという呼吸によって肺に沈着する可能性の高い粒子も見られた。彼らは、この粉体が、核分裂生成物だけでなく「燃焼しなかった核燃料の一部」をも含んでいる可能性が高いと考えている。
     カルトフェン氏は、2014年8月3日に、福島原発から460km離れた名古屋で採取された掃除機フィルターから、極めて強力な放射線を発する放射性微粒子(粒径10μm)を発見した。それにはセシウム137・134だけではなく、コバルト60、ラジウム226が検出された。放射線量が法外に高い(1キログラムに換算すると4000京Bq/kg)ことから、カルトフェン氏は、その粒子の少なくとも80%は核燃料自体の破片であろうと評価している注24
     京都大学大学院工学研究科の河野益近氏は、2014年8月から9月にかけて、福島県南相馬市内および福島県各地で「黒い物質」を採取し、放射線強度を測定した。その結果によれば、南相馬では16万〜99万ベクレル/kg、福島市内でも8万ベクレル/kgが検出されている。これによれば、「黒い物質」は、現在も、多くの住民の生活空間において存在し、数多くの人々を、とくに戸外で遊ぶことの多い子供たちを確実に内部被曝に導いていると考えられる注25

    表3 福島県南相馬市内と福島県内の土壌および「黒い物質」の放射線量

    出典:「フクロウの会」のホームページより
    http://fukurou.txt-nifty.com/fukurou/files/2014_1010ozawa2.pdf

      1-3.以上から導かれる結論

     以上検討した観測事実から次のように結論できる。
    (1)福島事故においては、放出された放射性微粒子は、主に、いったんは気化した物質が固化して形成された微粒子の形を取っていた。さらには、炉心溶融過程ですでに微粉化していた核燃料(核分裂生成物である多種の放射性物質が固溶している)が爆発により放出されて形成された微粒子もあった。
    (2)福島事故において、a) 粒径の点で、b) 不溶性・可溶性の点で、c) 合金・ガラス状か各種大気中エアロゾルへの付着かの点で、生成過程の異なるさまざまな種類の放射性微粒子が放出された。
    (3)そのような性質の違いによって、これらの微粒子は人体内に侵入する過程において異なった経路を辿ることになる。
    (4)早い時期から、遅くとも2011年7月には、放射性微粒子の再浮遊が本格的に始まっていた可能性がある。
    (5)福島から東京にかけて広く拡散している「黒い物質」は、ここで検討した福島原発から放出された放射性微粒子であるか、福島事故により放出された放射性物質に由来するものである。またこの事実により、足立氏らが発見した「ホットパーティクル」が、ごく少数の例外的な存在ではなく、広く存在する普遍的現象であることが証明されている。






    本記事は
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性
    ――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(1/4)

    です。

    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(1/4)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(2/4)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(3/4)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(4/4)



     
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