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2014.11.30 Sunday

福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性 ――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性 (2/4)

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    2014年11月

    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性
    ――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性
    (2/4)

    渡辺悦司 遠藤順子 山田耕作    2014年10月13日(2014年12月18日改訂)


    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(No.1) (26ページ,p1-p26,1953KB,pdf)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(No.2) (45ページ,p27-p71,1614KB,pdf)


    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(1/4)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(3/4)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(4/4)


     

        2.放射性ガス・微粒子の人体内への侵入経路


      2-1.タンプリン、コクランによる問題提起

     このような放射性微粒子による被曝の危険性は、すでに1974年に、タンプリンとコクランらが「ホットパーティクル」として提起したものである。彼らは、微粒子によって(とくにアルファ線によって)被曝する場合には、近傍の組織の被曝量は莫大なものになるので、ホットパーティクルを問題にする場合の許容量を11万5000分の1に引き下げるよう提案した注26
     当時の議論は、プルトニウムとアルファ線による影響が議論の中心であったが、現在ではセシウムやストロンチウムやウランなどについても、ベータ線やガンマ線についても、同じように当てはまるということが明らかになってきている。1-2および1-3で検討したような各種の放射性微粒子が現実に発見されてきている現在、「ホットパーティクル」の危険性は、1974年当時の議論よりも、もっと広く深刻に考えなければならない。

      2-2.1969年の日本原子力委員会(当時)の報告書

     これらの放射性微粒子の健康への影響の検討に進む前に、タンプリンが問題を提起する5年前の1969年に、日本において、当時の原子力委員会が、微粒子による内部被曝のメカニズムを検討し、その危険性を報告している事実があることを確認しておこう(「原子力委員会決定 昭和44年(1969年)11月13日 プルトニウムに関するめやす線量について」)注27
     萩原ふく氏はこの文書を発見して、ホームページ「No Immediate Danger」でこの重要な事実を指摘し、「ホットパーティクル」が福島事故で生成された可能性を調査もせずに否定した日本のICRP委員たちを強く批判している注28
     この政府文書は、プルトニウムの微粒子の体内への侵入と内部被曝のメカニズムに関して、きわめて重要な指摘をしている。長くなるが引用しよう。


    1 事故時に放散されるプルトニウムの形態
     …燃料物質が原子炉建屋の外に放散されるような事故を考えるならば、そのときの放散されるプルトニウムの形態は、酸化物のかなり細かい粒子であると考えてよいと思われる。このような形態のプルトニウムが原子炉周辺の公衆と接触するのは、事故時に生じたエアロゾルが格納施設から漏れでて外界に放散されるときと考えられる… 仮想される原子炉事故の場合に、最も多くの人が遭遇し、かつ、これらの人々が放射線障害を受ける危険性が最も大きいと考えられるのは、これらのエアロゾルを吸入することによってプルトニウムを体内に摂取する場合である。…

    2 吸入されたプルトニウムの代謝
     プルトニウムがエアロゾルとして大気中に放散された場合、吸入されたプルトニウムの一部は呼気とともに排出されるが、残りは呼吸器系の各部に沈着する。
    (イ)プルトニウム粒子の呼吸器系への沈着
     プルトニウム粒子の呼吸器系の各部への沈着の割合は、その粒子の径によって大きく左右され、さらに粒子の気道中での速度を支配する呼吸量によっても影響をうける。一般に、粒子径が大きいものは鼻咽腔に、中位のものは気管、気管支に、更に微細なものは終末気管支および肺胞の部分にまで侵入して、そこに沈着する。一般に、大気中に放出されるプルトニウムエアロゾルは、単一の粒子径のものではなく、種々の大きさのものが混在する。…(別図)
    (ロ)プルトニウム粒子の沈着後の行動
     呼吸気道の各部へ沈着したプルトニウム粒子は、それがPuO2のような不溶性のときは、一部は鼻汁とともに外部へ、残りは嚥下されて消化管へ移る。気管や気管支に沈着した粒子は、これらの部分の呼吸気道に存在する繊毛により粘液とともに上方へ送られ、咽頭部を経て消化管へ移行するが、このときの速度は非常に速く、数分及至数十分と推定されている。…終末気管支および肺胞に沈着した粒子は、その部位では繊毛による粒子の移動がないため、長い期間そこに留まる。肺胞の壁を構成する細胞の中には、粒子を貪食する作用をもつものがあるので、一部の粒子は貪食され、さらに、その一部は細胞とともに肺淋巴節へ移行しそこに長く留まるものと考えられている。
     プルトニウムは、肺臓の各部でわずかではあるが血液中に吸収され、また、貪食されたプルトニウム粒子の一部は、淋巴を介して血液中へ入る。
     血液中に入ったプルトニウムは、一部は肝臓へ、他は骨、骨髄に移行する。肺臓に沈着したものは緩慢に減少し、一方、肝臓、骨、骨髄、肺淋巴節では、極めてゆっくり増加する。…

    3 問題とすべき臓器
     …肺臓は、その機能の重要度からしても、また放射線感受性という点からも重要視すべきであり、とくに吸入後初期には、線量率も肝臓、骨等に比べて著しく高く、また、PuO2の場合、肺胞のプルトニウムによる積算線量は肺淋巴節に次いで大きく、動物実験においても多数の肺癌が認められているので、肺臓は…問題とすべき臓器の一つである。…


     また同報告には別図が付いており、これも重要である。「肺の各領域における沈着率の粒径分布の違いによる差」と題されており、とくに鼻咽喉への沈着率は最近の「鼻血」問題との関連で注目される。


    [注意:図の横軸左下の2箇所のミクロンの表記(0.1と0.5)は、
    明らかに誤植で0.01と0.05としなければならないと思われる]

     すでに今から45年前に、内部被曝の具体的なメカニズムを明らかにしようとするこのような見解が、政府報告として公式に表明されていたことは、驚くべきである。荻原氏は、この文書が現在までほとんど忘れ去られていた事実に言及している。最も重要点は、この内容が、そこで述べられているプルトニウムだけではなく、セシウム、ウラン、ストロンチウムほかの放射性物質について同じように当てはまることである。

      2-3.内科学および薬学の教科書による肺内沈着の説明

     2-3-1.『内科学書』(中山書店)の叙述

     もちろん政府報告書のこのような内容は、医学の基本的な学説に沿ったいわば教科書的見解であって、決して特異なものではない。放射性微粒子の肺内沈着のメカニズムは、基本的に「じん肺」を引き起こす過程と同一であると考えられる。内科学の二大教科書のひとつ、『内科学書』(中山書店 第3版 1987年)は、「呼吸器疾患13じん肺」の項で次のように書いている。「一般に吸入された粉じんは、6μm以上の大型粉じんの80%は気道で捕捉され、肺胞腔に達するのは2μm以下の粒子である。0.2μm以下の粒子はそのまま喀出されるか肺胞の食細胞により処理されるので、結局じん肺を起こす最も有害な粒子の大きさは1〜5μmと考えられている。」注29
     ただし、じん肺の場合は、微粒子は遊離珪酸(SiO2など)などで、もっぱら細気道に固着してそこに炎症を起こし、肉芽腫が形成されたり、繊維化が生じたりすることが主な病態であるが、福島事故の場合は放射性微粒子であるから、肺に留まればそこで肺病変を起こし、もしも食細胞に捕捉されたときに崩壊をおこして食細胞が破壊されれば、リンパ管からのみでなく、肺胞の毛細血管から体内血流にのり、体内に入り込むことは容易に考えられる。
     また『内科学書』は、「治療総論」の中に「b.吸入療法a)エアゾール粒子の大きさと付着部位」の項があり、「正常な機能をもった肺では、深くゆっくりした呼吸を行った場合、肺胞には1〜2μm、細気管支には5〜10μm、気管支には12〜20μm、上気道には40μm以上の粒子が付着する」としている注30

     2-3-2.吸入薬の使用法についての薬剤師向け教科書の記述

     薬学関係の吸入薬に関する教科書注31も同じ内容の記述をしている。最近では吸入薬の薬効を向上させるために、各製薬メーカーによって粒径を小さくする努力がなされている。その関連で、粒径と肺内沈着率が研究されており、粒径によって気道のどの部分に沈着する可能性が高いかも明らかにされている(図6〜8)。またそれによれば、粒径が小さい場合に、2-2で引用した政府報告書の「別図」よりも沈着率が高いことが分かっている。

    図6 気道の分岐回数とその名称

    出典:福井基成監修 吸入指導ネットワーク編集
    『地域で取り組む喘息・COPD患者への吸入指導
    吸入指導ネットワークの試み』フジメディカル出版(2012年)64ページ


    図7 Weibelのモデルを用いた球状粒子の気道への分布比率

    出典:福井基成監修 吸入指導ネットワーク編集
    『地域で取り組む喘息・COPD患者への吸入指導
    吸入指導ネットワークの試み』フジメディカル出版(2012年)65ページ
    原典:Gerrty T R et al: Calculation deposition of inhaled particles in the airway generation of normal subjects. J Apply Phisiol 47(4): 867-873, 1979

    図8 剤形別による各吸入ステロイド剤の平均粒子径と肺内沈着率との関連

    pMDI:定量噴霧式吸入器(液体)、DPI:ドライパウダー吸入器(固体)
    引用者注:微粒子が液体でも固体でも傾向は変わらないことが分かる。

    出典:福井基成監修 吸入指導ネットワーク編集
    『地域で取り組む喘息・COPD患者への吸入指導
    吸入指導ネットワークの試み』フジメディカル出版(2012年)65ページ
    原典:Leach C L: Inhalation aspects of therapeutic aerosols. Toxicol Pathol 35(1): 23-26, 2007

      2-4.肺内に沈着した放射性微粒子による内部被曝の危険

     肺に沈着した放射性微粒子はそこで内部被曝を引き起こす。タンプリンの警告で分かるように、微粒子による被曝は放射性核種の元素単位での被曝よりも影響が桁違いに大きい。主要な影響はもちろん肺がんであるが、がんだけでなく、活性酸素・フリーラジカルによる肺炎を引き起こす可能性もある。『内科学書』第8版(2013年)には、放射線治療によって生じる活性酸素・フリーラジカルが引き起こす「放射線肺臓炎」の項目が記載されている注32。また、われわれが仙台錦町診療所・産業医学センターの広瀬俊雄医師にこの点を質問したところ「(活性酸素である)オゾンを我が国の大気環境水準の濃度で実験的にウサギに曝露したところ、組織所見(電顕[電子顕微鏡]含めて)で、末梢気道に反応性の細胞の集積(クラスタ)が確認され、その反映と思われる肺機能障害(クローズィングボリューム[呼気中のN2濃度を測定して末梢気道閉塞の程度を調べる検査法]を用いて末梢気道障害)を確認出来ている」という返答があった注33。低線量であっても放射線から発生する活性酸素・フリーラジカルが末梢気道を損傷する裏付けとなると考えられる。
     相対的に大きな(およそ2.5μm超)微粒子は、大量に鼻腔に付着した場合、局所的に毛細血管細胞を破壊し鼻血を引き起こす原因になるであろう。粒径の小さい(およそ2μm未満)放射性微粒子は、肺の最深部まで侵入して肺胞に沈着するので、長期にわたってそこに付着し、体内に取り込まれる比率も高く、内部被曝の危険が何倍も大きいと考えられる。足立氏が発見した2〜2.6μm程度の粒子は、どちらにも働くことができ、非常に危険な存在ということができる。気管に沈着した粒子は、喀痰(タン)として体外に排出されなければ、食道に入り、粒径が0.1μmより小さければ消化器から吸収される可能性がある。
     こうして肺から侵入した放射性物質は、血液とリンパ液を介して体内のあらゆる臓器、組織に侵入していくと考えられる。
     以前より、粉じん作業者には、肺がんを始めとする肺疾患のみでなく、食道がん・胃がん・大腸がんなどの消化器がん、肝臓がん、鼻・副鼻腔がん、脳腫瘍が明らかに多いと報告されてきた注34。また、マクロファージなどの食細胞が破壊されるなどの細胞性免疫力の低下から、粉じん作業者には全身疾患が有意に多いという報告注35があった。
     また、被曝労働の観点から見るならば、アメリカ・エネルギー省関連核施設で働く被曝労働者約60万人に対する調査(1980〜1990後半)について報告された2000年3月の「クリントン・ゴア教書」では、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫を含む22種のガンについて、放射線起因性であることが明らかにされた注36
     放射性微粒子が肺の奥深くまで到達し、そこに長く留まり、放射線を出し続けたならば、肺がんを始め、肺線維症なども含めた肺疾患を引き起こすであろう。しかし、放射性微粒子が肺には留まらず、肺胞マクロファージなどの食細胞に捕捉された後、肺門部(左右両肺の内側の中央部にあって気管支・肺動脈・肺静脈が出入りする部位)や縦隔(胸腔内の中央にあり左右の肺を隔てている部分)のリンパ節などに長期に留まれば、悪性リンパ腫を発症する可能性があり、血流を介して骨髄に到達すれば、白血病や多発性骨髄腫などを引き起こす可能性がある。また、前述のように、いったん気道に入った放射性微粒子が喀痰などと共に飲み込まれ、消化器系に入り、がんを始めとする消化器疾患を引き起こすことも想像に難くない。さらに言えば、マクロファージに捕捉された放射性微粒子が崩壊を起こすことにより、マクロファージが破壊され、さらに再びその微粒子が別のマクロファージに捕捉されて再びマクロファージを破壊するというサイクルを引き起こすことによる免疫力の低下が生じることになる。まさに、このサイクルは後述する福島県及び東京において見られる小児の好中球減少のメカニズムではないかと考えられる。つまりは、あらゆる疾患からの回復力の低下を引き起こす可能性を示唆している。このことは、チェルノブイリ事故後、人々にあらゆる疾患が増え、慢性疾患を有する人々の比率が急増したことの説明のひとつになり得るだろう。

      2-5.とくにナノ粒子の危険

     本論文で検討してきたとおり(1-2-1から1-2-4までおよび1-2-6)、福島原発事故において粒径1µm未満(ナノレベル)の放射性微粒子が極めて多数放出されていたことは、観測によって証明されている。また、本論文で引用した兼保直樹氏らの観測によれば、放射性微粒子の粒径分布は、放射能量で見て、大部分がナノ粒子であったことが明らかになっている(図5)。さらに小泉昭夫氏らによるセシウム粒子の分析によれば、採取された放射性微粒子全体の中で、1.1μm未満の放射性微粒子は重量で40.7%、セシウム放射線量で58.9%を占めている(表2)。また「PM2.5」と並んで最近注目されるようになっている「PM0.5」で見ると、0.46μm未満の粒子は重量の10.5%、放射線量の25%を占めている。粒子の絶対数で見れば、放出された放射性微粒子の中で、これらナノレベルの微粒子が圧倒的に多いと考えるべきであろう。
     粒径がナノレベルのこのような放射性粒子は、ミクロンレベルの粒子よりも危険性が桁違いに大きいと考えられる。かつては「1μm以下の小さな粒子は、その大半は肺にとどまらずに呼出されてしまう」と考えられていた(たとえば1987年発行の前掲『内科学書』第3版803ページ)。しかし、現在、0.1μm(100nm)以下の微粒子は、肺胞から直接血液中に入り込み、また消化管からも皮膚からも体内に直接吸収されることが知られている注37。ナノ粒子の危険性はまだ十分に解明されていない。とくに劣化ウラン弾の爆発で生じるような5nm程度の微粒子は、ガスと同様に作用するので、とくに危険であると警告されている注38。しかもナノ粒子は、体内のあらゆるバリア(関門、例えば胎盤や脳血管)を通り抜けてしまい、胎児にも、脳にも直接入り込んでしまう可能性がある注39。また、最近の非放射性の重金属(コバルト・クロム)ナノ粒子を使った研究では、バリアを通り抜けなくても、バリア細胞間の信号伝達を撹乱し、バリアの向こう側の細胞のDNAを損傷することが明らかになっている注40

      2-6.放射性微粒子による内部被曝の特殊性、集中的被曝とその危険

     ここで、内部被曝の人体への影響が今まで考えられてきた以上に極めて広い範囲に及ぶという点を見てみよう。
     内部被曝は、多くの模式図では各1個の放射性元素原子によって生じる場合が描かれている。確かに可溶性粒子の場合には、含まれている放射性物質がセシウムの場合、各個の原子が体内に入り、内部被曝を起こすであろう。しかし同じセシウムを含む粒子でも不溶性の微粒子の場合、とくにナノ粒子になった場合には、徐々には体液に溶けて行くにしても、長期間粒子のままとどまり、集合体として周囲の細胞や組織を集中的に放射線によって攻撃して行くであろう。いわゆる「生物学的半減期」(そのようなものが存在するとして注41)は、放射性核種が個々に原子レベルで存在するという仮定の下での数値であり、不溶性微粒子の場合には意味をなさない。また可溶性微粒子の場合でも、溶けるまでには時間がかかるので、微粒子中の放射性物質の「生物学的半減期」が1個1個の原子の場合より著しく長くなることは明らかである。
     内部被曝は、各1個の放射性元素原子によって起こる場合もきわめて危険であるが、数個から数百億個注42という多数の放射性原子を含む微粒子によって起こる場合は、桁違いに危険であると言わなければならない。さらに微粒子の粒径が小さくなればなるほど、粒子内部で他の粒子による遮蔽効果が少なくなるので、放射性粒子に近接する生体部分の被曝量は大きくなる。
     食物より吸収した場合も同様である。放射性微粒子は動物にも同じように微粒子として取り込まれるので、動物の肉として食べた場合も、微粒子として肉に含まれていた放射性物質はそのまま微粒子として、原子単位で含まれていた放射性物質は原子として、人体内に入ってくるであろう。植物性食品の放射能汚染も同じと考えるのが自然であり、肉などと同じように原子としてばかりでなく微粒子として取り込まれ、人体内で被曝する可能性がある。
     放射線の人体に及ぼす影響については、落合栄一郎氏の全面的な研究(『放射線と人体』講談社2014年)注43があり、同書を参照されたい。落合氏は、はっきりと放射性微粒子による内部被曝の模式図(図9)を掲げており、注目される(図は英語版より引用、日本語版は141ページにある)。細胞の大きさと比較すると、落合氏は、ほぼ足立氏らが発見した放射性微粒子(粒径2〜2.6μm)を考えていることが分かる。

    図9 落合栄一郎氏による内部被曝の模式図

    引用者注:図内でeは電子を表している。
    出典:Ochiai, Eiichiro; Hiroshima to Fukushima ―
    Biohazard of Radiation; Springer Verlag; 2014; 108ページ


      2-7.放射線の直接の作用と活性酸素・フリーラジカル生成を通じた作用(「ペトカウ効果」)

     被曝とりわけ内部被曝の危険性は、従来、主にDNAに対する損傷だけが注目され、それが引き起こす健康障害も、主としてがんだけが語られてきた。しかし最近、この影響はさらに広く理解されなければならないことが解明されてきている。ここで各項の内容には踏み込むことができないが、全体像を掴むため項目的に列挙してみよう。
     まず、放射線の作用は、主に2つあり、
    (1)放射線による直接の作用、すなわち体内では40µm程度しか飛ばないがその間にほぼ10万個の分子をイオン化する強力な破壊力を持つヘリウム原子核であるα線、10mm未満でおよそ数mm飛び多くの分子をイオン化する高エネルギーの電子であるβ線、1mほど浸透し疎らにイオン化し身体を突き抜けてしまう高エネルギーをもつ光子であるγ線など注44
    (2)放射線による間接の作用、すなわち放射線が生み出す活性酸素・フリーラジカルによる作用(一般に「ペトカウ効果」注45と呼ばれている)
    とに区別される。

     2-7-1.放射線の直接的影響

     さらに、(1)の放射線の直接の作用については、


    ①遺伝子の損傷
     1)DNA鎖の切断や塩基の損傷
     2)遺伝子発現過程(DNAメチル化、ヒストンタンパクのアセチル化・メチル化・リン酸化などエピジェネティクス[DNAの塩基配列の変化をともなわず、染色体の変化によって生じる、安定的に受け継がれうる表現型注46])の損傷
     3)(修復されたとしても)遺伝子の不安定化
    ②細胞膜の損傷
    ③細胞膜にある各種チャンネルの損傷
    ④ミトコンドリアの損傷、それによる慢性疲労性障害いわゆる「ぶらぶら病」
    ⑤細胞内の水分子のイオン化(以下で検討する活性酸素・フリーラジカルによる損傷)
    ⑥最近クローズアップされてきた問題として細胞外基質(細胞と常に情報を伝達し合い細胞にその機能を指示しているとされる細胞外マトリックスECM)注46の損傷。(われわれの見解では、放射線によるECMの損傷は、放射線による1個の細胞の損傷がその周辺の複数の細胞を損傷するという「バイスタンダー効果」を補説する可能性がある)。


     これらは、外部被曝でも内部被曝でも同じように生じると考えられるが、内部被曝は細胞のごく近傍で起こるために桁違いに危険である。

     2-7-2.放射線の間接的影響

     また、(2)の放射線の間接の作用については、放射線によって生じた活性酸素およびフリーラジカル(酸素分子および水分子さらには窒素分子の一連の還元種、過酸化水素、過酸化脂質、オゾンなど)が、基本的には放射線と同じ破壊的作用をいっそう広範囲に行うことが分かってきた注47。生物無機化学からと、医学からの双方の観点から見てみよう。

    2-7-2-1.生物無機化学からのアプローチ

     生物無機化学の面からの最近の研究により、活性酸素・フリーラジカルの生体への作用についても、がんだけでなくいっそう広く考えなければならないことが明らかになってきている。ここでは、2012年に刊行された最新の生物無機化学の代表的な教科書の一つ、山内脩らの『生物無機化学』(朝倉書店)を取り上げよう。同書は、一方では、生体が活性酸素・フリーラジカルを産生しその酸化損傷力を利用すると同時に、他方では、生体に備わっている解毒酵素(スーパーオキシドディスムターゼSODなど)をはじめとする抗酸化システムがフリーラジカルを打ち消すという微妙なバランスにある点を指摘している注48。酸化損傷力が抗酸化システムの能力を上回った場合、「酸化ストレス」が生じるとして、以下の諸過程を挙げている(252および358ページ)。


    ①ヒドロキシラジカル・OHによるDNA鎖の切断、塩基の損傷
    ②スーパーオキシド(O2・−)および過酸化水素(H2O2)によるミトコンドリアの損傷([Fe-S]クラスタなど)
    ③ペルオキシ化による細胞膜脂質の損傷
    ④活性酸素種によるタンパク質の酸化
    ⑤O2・−はリウマチ、心筋梗塞、糖尿病などさまざまな疾病の原因となる(例えば糖尿病患者の赤血球ではSODに多くの糖が結合しSODの活性が低下する)
    ⑥老化の原因となる
    ⑦筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病)は活性酸素を解毒する酵素(SOD)の変異に由来する
    ⑧パーキンソン病を引き起こす可能性がある


    などの点を指摘している。
     放射性物質とくに微粒子による内部被曝は、活性酸素やフリーラジカルを生成し、まさに「酸化ストレス」を持続的に生み出し、これらすべての過程を促すであろう。活性酸素・フリーラジカルの作用には、局所的な作用と全身的な作用とが考えられる。放射性微粒子によって生じる活性酸素・フリーラジカルはまずは局所的に強力に作用するであろうと考えられるが、全身的作用も伴うと考えられる。

    2-7-2-2.医学からのアプローチ

     医学面からの最近の研究によっても、活性酸素・フリーラジカルが人体に与える影響をもっと広く考える必要があることが明らかになってきている。

     [がんをはじめ広範な疾患を引き起こす]活性酸素・フリーラジカルの医学的影響に関する代表的研究者の一人である吉川敏一氏(京都府立医科大学名誉教授)によれば、フリーラジカル(吉川氏は活性酸素も含めた広い意味でこの用語を使っている)が標的とする生体内分子は非常に広範であり、生体の反応も複雑であり、いったんフリーラジカルをめぐる生体のバランスが崩れると、がんをはじめ極めて広範な疾病を引き起こす可能性があると指摘している(表4、図10および図11)注49。吉川氏がフリーラジカル生成の原因の一つとして大気汚染、喫煙、ショックなどとともに「放射線」を挙げ(図10左上)ていることは、とくに重要である。

    表4 フリーラジカルの標的となる分子

    *酵素の十分な活性化に必要な無機・有機の物質のこと
    出所:吉川敏一「フリーラジカルと医学」京都府立医科大学雑誌
    120(6) 2011年 385ページの図8の筆者による翻訳
    http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/120/120-6/yoshikawa06.pdf


    図10 活性酸素・フリーラジカルに対する生体の防御機構

    出典:吉川敏一氏(元京都府立医科大学教授)「フリーラジカルの医学」
    『京都府立大学雑誌』126(6) 2011年 386ページ
    http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/120/120-6/yoshikawa06.pdf


    図11 フリーラジカルと疾患

    出典:吉川敏一氏(元京都府立医科大学教授)「フリーラジカルの医学」
    『京都府立大学雑誌』126(6) 2011年 385ページ
    http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/120/120-6/yoshikawa06.pdf

     [心臓疾患]また、吉川氏がフリーラジカルのもたらす疾患として心筋梗塞や心不全を挙げている(図11左上から5〜6行目)ことも注目される。放射性セシウムはカリウムに構造が似ているので、カリウムに代わって筋肉に取り込まれやすく、心臓を損傷する危険性が高いが、放射線の間接的作用であるフリーラジカルもまた心臓に損傷を与える。この点は、福島において急性心筋梗塞による死亡が原発事故後に激増している事実(後述)から見ても、極めて重要である。

     [白内障]吉川氏が列挙しているフリーラジカルによって発症が促される疾患の一つに白内障があるが、この点も重要である。われわれは、放射線被曝と白内障発症の関連についてすでに指摘し、危険を直視するよう呼びかけてきた注50。白内障と被曝との関係は重要である(後述)だけでなく、若干特殊であるので、少し詳しく検討しよう。少なくとも次の3つの側面が考えられる。
    (1)放射能汚染された環境での外部被曝。厚生労働省の文書が引用している資料では8mSv未満でも影響が示唆されている注51。したがって、低線量でも年数を経て蓄積すれば、十分発症の条件になり得ると考えなければならない。
    (2)体内への放射性物質の蓄積による内部被曝。セシウム137との関連が実証されており、体内蓄積21〜50Bq/kgで15%の子供が発症した事例が報告されている注50。体内蓄積した放射性物質の内部被曝による発症については、すでに指摘したように、放射線の直接の影響と、活性酸素・フリーラジカルによる間接の影響の両方があると考えられる。
    (3)外からの放射性微粒子の角膜への沈着による外部被曝(至近距離)と内部被曝(水晶体内への浸透)が結合した被曝。角膜は涙液によって常に洗われているが、放射性微粒子が付着することは十分に考えられる。医療現場でよく使われている『今日の眼疾患治療指針』の現行版によれば、「鉄、カルシウム塩、脂質の一部」などが角膜上皮に「沈着しやすい」とされている注52。つまり、ここまで検討してきた各種の微粒子――①鉄・カルシウム・カルシウムに性質の似たストロンチウムの少なくとも1つを含む粒径の小さい不溶性の放射性微粒子(1-2-1)、②藻類など微生物にとらえられた、すなわち脂質を含む乾燥した細胞膜に被覆された、放射性物質粒子(1-2-7)、③可溶性の放射性微粒子(1-2-4)――などは、角膜上皮に沈着して水晶体を至近距離から攻撃し、水溶性の放射性物質の場合はさらに水晶体の内部にまで浸透し内側から攻撃することになる可能性がある。白内障治療薬として角膜から水晶体に浸透する点眼薬が開発されている注53ことからも分かるように、角膜から水晶体への浸透にはとくに関門のようなものがあるわけではない。
     付け加えれば、放射性の白内障の場合、さらに次の問題が残っている。
    (4)放射線による白内障発症の機序は、急性症状として出現するものと何年か後に発症するものとでは、発症機序が異なるのかもしれない。
    (5)放射線による白内障では、水晶体の混濁する部位が、その被曝形態によって異なるのかもしれない。
    (6)一般的には白内障は左右の眼においてほぼ同じ速度で進むことが多いとされるが、角膜に沈着した放射性物質による被曝の場合、左右で沈着の状況が違えば左右の進行度がはっきり異なることになるかもしれない。
    (7)白内障以外の眼科疾患も増加させている可能性がある。
    (8)PM2.5など他の環境要因との相互作用も考えられる。

     [精神障害]さらに、最近の研究によれば、精神障害や精神疾患においても、ストレスなど心的な原因だけでなく、一連の化学物質が遺伝子の変異(エピジェネティックな変異も含む)を引き起こし、それが発症の重要な要因となることが明らかになってきている。吉川氏は、前掲図11において、アルツハイマー病やパーキンソン病とフリーラジカルとの関連について指摘している。
     黒田洋一郎氏ほかの研究によれば、そのような化学物質とともに、放射性物質とりわけストロンチウム90がヒストン・タンパク質の内部のカルシウム結合位置に入り込み、DNAと染色体タンパク質をその近傍にまで接近して損傷し、生殖細胞(とくに精子)DNAの変異やエピジェネティックな変異を引き起こし、自閉症など多くの精神障害・疾患の発症を促す重要な要因の一つとなる可能性があるという。また同氏は、ストロンチウム90がカルシウムに代わって神経細胞に取り込まれる危険性に注目している。「カルシウムは神経伝達物質の放出の引き金になるなど脳内のさまざまな機能を調節しており、結合部位も多いので、ストロンチウム90の内部被曝が精神疾患、神経疾患をふくむさまざまな脳機能の異常の原因となる可能性がある」と述べている注54

      2-8.まとめ

     放射線被曝とくに放射性微粒子による内部被曝は、極めて広範囲の疾患や障害の発症に直接間接に関与し、ほとんどあらゆる病気を増加させると考えなければならない。被曝とがんとの関連は極めて重要である。だが、被曝の影響はがんだけであると考えてはならない。重要なポイントは、被曝が、がんから始まり、種々の内科的、眼科的、整形外科的、精神神経科的な障害・疾患にいたる、非常に広範な健康破壊的影響を及ぼすということである。したがって、医学内部の各科ごとの機械的な分業の枠を越えた、有機的で全面的な研究が必要であろう。というのは、上記の各疾患や症状は相互に結びついており一体のものとしてしか理解できないからであり、それらを過去の一面的な知見によってばらばらに切り離し、被曝との関連の有無を従来から「公認」されてきた疾患だけに狭く考えるならば、現実の被曝の危険を見逃すことになるからである。





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    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性
    ――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(2/4)

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