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2014.11.30 Sunday

福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性 ――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性 (3/4)

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    2014年11月

    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性
    ――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性
    (3/4)

    渡辺悦司 遠藤順子 山田耕作    2014年10月13日(2014年12月18日改訂)


    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(No.1) (26ページ,p1-p26,1953KB,pdf)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(No.2) (45ページ,p27-p71,1614KB,pdf)


    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(1/4)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(2/4)
    福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(4/4)


     

        3.再浮遊した放射性微粒子の危険と都心への集積傾向


     ここでは、すでに多くの文献が発表されている福島については概観するだけにとどめ、都心と東京圏における放射性微粒子の危険性と健康への影響を中心に取り上げることにしたい。

      3-1.福島など高度の放射能汚染地域における疾患の増加

     東日本大震災および原発事故後の高度に放射能に汚染された地域における疾患の顕著な増加については、すでに多くの報告で明らかにされている注55。客観的なデータや多くの人々の生の証言を収集し、これらを総合して福島事故のもたらしている住民健康被害の全体像を明らかにしていくことが課題である。ここでは次の点を付け加えるだけにしたい。
     2012年6月29日付けのNHKニュースでは、「東日本大震災後の1ヶ月間で東北大学病院が受け入れた心不全患者が震災前の3倍を超えていた」と報じられた。また、福島市の大原総合病院では、心筋梗塞と狭心症の患者数が、事故前の2010年に比較して、2011年で2.5倍に、2012年前半で1.6倍になったとされている(落合前掲書、英語版174ページ、和書274ページ注43)。2012年3月の日本循環器学会では東北大学循環器内科の下川宏明氏が「東日本大震災では発災以降、心不全をはじめ、急性心筋梗塞と狭心症、脳卒中などの循環器疾患が有意に増加しており、特に心不全の増加は、過去の大震災疫学調査では報告例がなく、東日本大震災の特徴の1つである」と報告している。
     福島県に関しては、震災以前から急性心筋梗塞の年齢調整死亡率は全国ワースト・ワンであった。しかし、東日本大震災発生以降は、全国的に見れば急性心筋梗塞による死亡率は減少しているにも関わらず、福島県では急性心筋梗塞が増加し続けている。この福島県内の急性心筋梗塞の死亡率とセシウム汚染値の濃淡の関係を解析した結果、「セシウム汚染が濃いところほど急性心筋梗塞の年齢調整死亡率が高いという傾向が見られた」という報告がある注56。実際、福島県内では2011年の震災後に高校生3人が急性心不全で亡くなり、2014年9月には小学生が急性心不全で亡くなっている。また、2013年3月までに少なくとも3人の原発作業員が急性心筋梗塞または心臓発作で突然死している。福島県における急性心筋梗塞による死亡率は、原発事故のあった2011年以降急増し、突出して全国1位である(図12)。

    図12 厚生労働省『人口動態統計』に見る急性心筋梗塞による県別死亡率

    「市民と科学者の内部被曝問題研究会」小柴信子氏作成。
    2011年までのグラフはOchiai,Eiichiro前掲書175ページにある。
    出典:http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii04/

     また、小児甲状腺がんについては、すでに103人の甲状腺がんまたはその疑いが見つかっているが、「手術の終わった57名の甲状腺がんは、8割が肺転移(2名)や頚部リンパ節転移や局所浸潤の症状のある患者である」と報告された。東京大学先端科学技術センターの児玉龍彦教授は、その著書『内部被曝の真実』の中で小児甲状腺がんについて、以下のように述べている注57
     「数万人集めて検診を行っても、なかなか因果関係を証明できない。エビデンスが得られるのは20年経って全経過を観測できてからである。これでは患者の役には立たない。それでは、病気が実際に起こっている段階で、医療従事者はどのように健康被害を発見したらいいのか。ここで、普通で起こり得ない『肺転移を伴った甲状腺がんが小児に次から次へとみられた』という極端な、いわば終末型の変化を実感することが極めて重要になってくる…」と。
     肺転移2名というのは、その始まりではないのだろうか。ちなみに、米国疾病管理予防センター(CDC)のがんの潜伏期間に関するレポートMinimum Latency & Types or Categories of Cancer(改訂2013年5月)では、小児甲状腺がんを含む小児がんの潜伏期間は1年となっている注58。同文書のサマリーによれば、主要ながんの最短の潜伏期間は表5の通りである。「いま見つかっている小児甲状腺がんは被曝によるものではない」という根拠はすでに崩れたと考えられる。

    表5 米国疾病予防管理センター(CDC)による主要ながんの最短潜伏期間

    出典:John Howard; Minimum Latency & Types or Categories of Cancer;
    World Trade Center Health Program; Revision May 1, 2013 7ページ
    http://www.cdc.gov/wtc/pdfs/wtchpminlatcancer2013-05-01.pdf


      3-2.東京圏における放射性微粒子による汚染

     最近明らかになってきたのは、福島県とその周辺部だけでなく、東京圏とくに都心において放射性物質による汚染が集積する傾向が顕著になっていること、東京圏においていろいろな病気の多発が始まっている兆候が見られることである。まず前者から検討しよう(後者については3-4で検討する)。
     例えば、政府の原子力規制委員会「定時降下物のモニタリング」が発表している「都道府県別環境放射能水準調査(月間降下物)」注59においては、東京(新宿)で観測される降下量が関東地方の他の観測地点における数値よりも高くなる傾向がはっきり見られる(表6、図13)。放射性降下物の量は季節変動が大きいので、同じ月で比較する必要があるが、最新の8月の数字は、セシウム137について、次の事実を確認できる。
    (1)東京(新宿)における放射性降下物量が2013年8月まで減少した後、2014年には大幅な増加に転じていること(ちなみに同月の東京の降下量7.7 MBq/km2すなわちBq/m2は事故直後に大阪・神戸に降ったピークの値7.9にほぼ等しい)、東京に近い市原でも若干の増加を示している。
    (2)東京における放射性降下物量は、事故直後には北関東地区より明らかに少なかったが、2013年からひたちなかを除いて多くなり、2014年には、ひたちなかを含む関東の全観測地点の数字よりも大きくなっている。

    表6 月間降下物調査結果が示す再浮遊放射能の都心への集積傾向

    出典:原子力規制委員会「定時降下物のモニタリング」における
    「都道府県別環境放射能水準調査(月間降下物)」より筆者作成
    http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/list/195/list-1.html

    図13 月間降下物調査結果(表6)をグラフにしてみると

    前掲小柴信子氏作成。
    出典:表6と同じ

     また、東京の降下量が他のすべての関東の観測地点の降下量よりも大きかった月を数えてみると、
     ①2011年3月〜12月には: ゼロ
     ②2012年12ヶ月中には: ゼロ
     ③2013年12ヶ月中には: 1ヶ月(2月)
     ④2014年8ヶ月中には: 3ヶ月(3月、5月、8月)
    であった。
     上に加えて、関東の観測点で事故原発に最も近いひたちなか(茨城県)を除くと、東京の放射性降下物量がどの関東の観測地点の降下物量よりも大きかった月は、
     ①2011年3月〜12月には: ゼロ
     ②2012年12ヶ月中には: 2ヶ月(8月、10月)
     ③2013年12ヶ月中には: 8ヶ月(2月、3月、5〜10月)
     ④2014年8ヶ月中では: 7ヶ月(1月、3〜8月)
    であった。
     各年・各期間の平均した降下量も同じ傾向を示している(表7)。

    表7 各期間の月平均降下量       (セシウム137:月平均MBq/km2すなわちBq/m2

    出典:原子力規制委員会「定時降下物のモニタリング」における
    「都道府県別環境放射能水準調査(月間降下物)」より筆者作成
    ただし2011年3月は19日からの観測結果。18日以前の数字は発表されていない。
    http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/list/195/list-1.html

     しかも、東京新宿における放射性降下物量は、昨年2013年3月に、月間で42MBq/km2(2013年2月にも25 MBq/km2)という事故直後2011年5月(74 MBq/km2)以来最高の降下量を記録している。
     現在でも、福島原発からは、冷却水の中にあるが内部は高温のままであるメルトダウンした炉心からの新規の放射性物質の放出が、汚染水中だけでなく、一部は大気中へも、続いていると考えられる。東電発表の数字(1時間あたり1000万Bq以下)注60は、建屋上部等のダスト濃度を採取したもので、ガスとして放出されたものはほとんど捕捉されておらず、また建屋内からの再浮遊分が含まれ、真の放出規模を明らかにしているとは考えられない。ただ事故時に比べて大幅に減少しているのは事実であろう(東電の同発表によれば8000万分の1)。
     従って、現在生じている降下物の大部分は、すでに放出された放射性物質の再浮遊による二次的三次的汚染と考えるべきであろう。上記の東京都心における降下量の変動もまた、再浮遊による結果であろう。しかし、再浮遊する放射性物質の源泉は、明らかに事故原発、それに近い福島県、汚染のひどかった北関東地域であろうから、東京への降下物がそれら北関東の観測地点よりも高くなる傾向は、風や雨などの気候条件や地形などの自然的条件だけでは説明できないように思われる。

      3-3.東京圏への汚染集積の諸要因

     以下のような一連の人的要因が関連していると考えるほかない。

     3-3-1.福島事故原発の工事による放射性物質の放出

     第1は、福島事故原発での廃炉工事による放射性物質の再浮遊と飛散である。東電は十分な準備や飛散対策をしないまま事故原発での廃炉工事を急いでいる。2013年8月中旬には、福島原発3号機のがれき処理作業によって大量の放射性物質の再放出事故(放出量は1兆1200億Bqに上ったといわれる)が起こった注61。だが、このような事故は、他にも公表されないまま繰り返されている可能性がある。この昨年8月の飛散事故も、東電ではなく農林水産省の発表によって明らかになったのであり、東電は事故をそれまでひた隠しにしていた。この事実は深刻な結果をはらんでいるというほかない。とくに1号機の廃炉工事のための放射線物質飛散防止用建屋カバーの撤去工事など今後飛散事故が頻発したり、重大化する危険性に注目しなければならない注62。福島原発事故直後3ヶ月間の平均降下量(表6)を見ても分かるように、東京は茨城(ひたちなか)に次ぐ降下量を記録している。福島で放出された放射性物質は、一度海上に出てから東風に乗る形で、東京に届きやすい自然的条件があると思われる。また都心に林立する超高層ビル群は低層雲の最底部(高度約100m)よりも高くそびえており、いわば雲の中に衝立のように立ちはだかって、浮遊してきた微粒子の沈着を促している可能性もある。

     3-3-2.焼却施設からの放射性物質の放出

     第2には、ゴミや産業廃棄物の焼却である。震災がれきの焼却を含めて、放射性物質で汚染されたゴミを焼却すれば、人口が密集してゴミ焼却施設も集中立地している東京圏の再汚染が進むことになるのは必然である。環境省が放射性物質を「99.99%除去できる」という「バグフィルター」が、微粒子ではなく焼却炉内で気化したセシウムを捕捉できないのは当然であって、環境省の主張は「虚偽」と言われても仕方がない。井部正之氏によれば、バグフィルターによるセシウム137の除去率は60%程度であり、約4割が外部に漏れている可能性があるという注63。気体として放出されたセシウムは大気中で微粒子となるであろう。さらに、政府の現行の基準では、1kgあたり8000Bqまでの廃棄物は通常のゴミとして焼却処理できる。これは、高濃度の放射性廃棄物がゴミとして焼却されることによって、微粒子による深刻な二次汚染を生じさせていることを意味する。「福島老朽原発を考える会(フクロウの会)」のリネン吸着法(布を張ってそれに付着する放射性物質を測定する)による降下放射能の調査によれば、東京都の日の出処分場のエコセメント化工場の近傍(日ノ出町二ッ塚峠)では、現実にセシウム137の付着(1時間あたり1m2の布に2.9mBq)が観測されている注64

     3-3-3.物流・交通機関による放射性物質の運搬と集積

     第3は、物流や交通機関によって運ばれる危険である。政府は、福島県や周辺の汚染が深刻な地域のJR線や高速道路や国道の再開を急いでいる。汚染がひどい地域を通った後に、これら列車やトラックその他の交通車両の除染が行われているという報道はない。これは、運転手や関連作業員の被曝だけでなく、物流や運輸により汚染が全国に拡大されている可能性があることを意味する。とりわけ物流や交通機関が集中する都心や首都圏に、付着した放射性微粒子が集積する客観的な条件となっていると考えなければならない。1台1台に付着する放射能量はわずかでも、すべて集まれば莫大な量となるからである。
     しかも、2012年5月に行われた原子力安全基盤機構の実測による調査注65によれば、事故原発の近郊を通る国道6号線を通過した車両(側面、底面、タイヤハウス)に付着する放射性物質は、天候にかかわらず、平均で2Bq/cm2と算定されている。同調査は、ここから「国道6号を通過する車両に付着する汚染は僅かである」と結論づけている。しかし、故意に小さく見せようとする数字の操作をはぎとり、1m2に換算すれば2万Bqであり、事故直後のひたちなかで観測された3ヶ月間の降下量に等しく、決して「僅かな」量どころではない。小型乗用車(プリウスなど)のコーティング処理表面積はおよそ10m2なので注66、実際の表面積をこれの2倍(20m2)と仮定すると、通行によって1台あたり40万ベクレルの放射性物質が付着することになる。大型乗用車だとコーティング面積がおよそ15 m2なので60万ベクレルが付着することになる。トラックやバスだとその大きさに応じて、この数倍から100倍以上になるであろう。現在、国道6号線の通行量は、開通区間で、平日1万台前後であり注67、通行車両の平均表面積を大型乗用車程度と仮定すると、通行車両により運ばれる放射性微粒子の量は、1日あたり60億ベクレル、1年間では2兆ベクレルを越えることになる。広島原爆のセシウム137放出量の40分の1になるレベルである。表面積の大きいトラックやバスなどの通行が多いと、この数字はさらに何倍も多くなるであろう。
     政府は、国道に続いて常磐自動車道も開通させようとしているが、これにより通過する交通量が飛躍的に増えるであろう。そうなれば、車両に付着して運ばれる放射性物質の量もまた飛躍的に増えることになろう。さらに、汚染の大きい中通り(福島市、郡山市など)を通る東北自動車道、国道など幹線道路についても、程度は違うであろうが、同じことが言える。
     JR常磐線・東北線、東北新幹線など鉄道も、放射性微粉塵を運んでいるであろうし、列車の表面積は桁違いに大きいので、運ばれる放射性物質の量は、比例して大きいと考えられる。これらの車両の洗浄の際に放射性物質の除染が行われているとは考えられない。JR東日本は、事故直後の2011年10月に、常磐線広野駅に放置していた車両を、除染せずに車両センターに移送し、その後常磐線の不通区間を部分開通させたが、これに対しJRの労働組合は乗務員の被曝に反対してストライキを行った注68。JRは、2017年春に常磐線を全線開通させようとしている注69。前述のリネン吸着法による「フクロウの会」の調査によれば、福島県伊達市内では、鉄道の脇でのセシウム137の捕捉量(17.7mBq/m2・h)が、他の観測点の2.8倍から4.7倍と目立って多くなっており、鉄道の往来による粉塵が原因と推定されている注60
     これら交通機関や物流は、多くが東京都心へと向かい、またそこから日本全体に広がるにしても一度は東京圏を通ることが多い。このように、放射性微粒子の再浮遊による被曝の拡大とくに東京都心への集積傾向は、きわめて深刻な問題である。

      3-4.東京圏住民の健康危機の兆候は現れ始めている

     それは、東京圏におけるがんや心筋梗塞をはじめあらゆる病気の急増という破局的な結果をはらんでいるといっても過言でない。その兆候とでも言うべきものはすでに現れ始めている。

     3-4-1.がん発症の増加

     日本のがん統計は、すでに事故以前の10年間について、全がんで51.3%増(年平均4.26%増)という、がん罹患数の大幅な、危機的ともいえる増加を示している(国立がん研究センター「全国がん罹患者数・率推定値」)。このような傾向の背景に、人口の高齢化、環境汚染(大気汚染、農薬、有害化学物質、食品添加物、遺伝子組み換え作物、電磁波、オゾン層破壊、薬害など)、労働環境や労働条件の悪化、社会矛盾の深刻化やストレスの増加などさまざまな客観的諸要因があることは明らかである。だがそれだけではない。これらと複合的に組み合わさる形で、広島・長崎への原爆投下、米ソなど核保有国による核実験、原発や核工場の運転による日常的な放出、繰り返されてきた核事故や原発事故など、歴史的に環境中に放出され蓄積されてきた大量の放射能が、発がん要因として大きな役割を果たしていることもまた明らかである注43。福島原発事故によって放出された放射性物質によって生じるがんの多発は、このトレンドの上に付け加わることになる。
     日本政府のがん罹患者数統計は恐ろしく不備であり、現在の最新統計は事故前の2010年でしかない。また県別の統計は2007年までしか発表されていない。しかし、複数の個別の病院のがん統計は、東京を中心とする関東圏でがんが急増している可能性を示している。
     東京都文京区にある順天堂大学付属順天堂病院のホームページに、血液内科について受診した患者数とその症例の統計が記載されている(表8)。それによれば、放射線との関連性の高く潜伏期間が0.4年と短い(上記CDCレポート)注58とされる悪性リンパ腫、白血病など血液関連のがんが2011年以降2倍以上に増えており、がんの多発が、日本で最も人口の多い、東京を中心とする関東圏で現に生じ始めている可能性を示唆している。

    表8 順天堂大学付属順天堂病院・血液内科の外来新規患者数およびその内訳

    2011年と2012年・2013年では分類が若干違っている。
    A/Bと記している場合Aは2011年の分類、Bは2012・2013年の分類である。
    出典:順天堂大学医学部附属順天堂医院 血液内科 診療実績より筆者作成
    http://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/ketsuekinaika/kanja03.html

     もちろんこのような新規患者の急増は、病院施設の拡張によるものであろうとも考えられよう。そこで入院患者の総数を見てみると、2011年から2013年に、209人から304人へと45.5%の増加であり、施設・人員の増強は(未確認であるがもしあったとしても)5割程度でしかないと推定される。したがって、たとえ施設・人員増があったとしても、このような新規患者の2倍以上の増加は、説明できない。また、もし施設拡張があったとしても、そのような拡張自体が患者の急増を反映するものであろう。
     血液関連のがんが急増する同じ傾向は、患者統計が利用できる順天堂病院以外の首都圏の4病院でも確認されている。『原発通信』第716号(遠坂俊一氏提供)の資料によれば、骨髄異形成症候群による入院患者数は、表9のように急増している。

    表9 首都圏の病院における骨髄異形成症候群による入院患者数 (単位:人)

    『原発通信』第716号の資料により筆者作成。
    出典:原データを掲載している各病院のサイトはそれぞれ以下の通りである。
    http://www.ntt-east.co.jp/kmc/guide/hematology/result.html
    http://www.ho.chiba-u.ac.jp/dl/patient/section/ketsueki_01.pdf
    http://www.musashino.jrc.or.jp/consult/clinic/3ketsueki.html
    http://www.hospital.japanpost.jp/tokyo/shinryo/ketsunai/index.html#jisseki

     さらに、国立がん研究センターが発表している「がん診療連携拠点病院 院内がん登録」統計は、今年7月にようやく2012年の統計が公表されたが、上記の個別病院統計と同じような東京における血液がんの急増傾向をはっきりと示している。表10は、2009年に調査対象であった17病院について、血液がんの登録患者数の推移を示したたものである。事故前の2009年から2010年の増加率は、血液がん合計で1.1%なので2年間に換算して2.2%である。このトレンドと比較すれば、表10に示された2010年から事故後2012年への増加率21.1%は、明らかに大きな加速ということができる。また全国の血液がん患者数の増加率14.3%と比較しても、東京における増加率は突出している。

    表10 「院内がん登録」統計による東京都内17病院の血液がん患者数  (単位:人)

    注記:*が付いているものは実数、それ以外は筆者の推計値である。
     「院内がん登録」統計における東京都の調査対象病院は、2009年の17施設から、2010年に20施設に、2011年および2012年の25施設に拡大している。国立がんセンターの統計は、この事情を考慮せずに各がんごとの合計値を計算している。したがって、年ごとの数値を比較するためには、2010、2011、2012各年についても、2009年に調査対象であった17病院に限定して計算する必要がある。
     表10では、同統計「付表1〜6」に記載されている東京都全体の登録患者数から、各年ごとに新たに付け加わった病院の患者数を差し引いた数字を掲げてある。また、同統計では10以下の数字は、プライバシーを理由に伏字で表記されている。ここでは、伏せられた数字をすべて5であると仮定して計算した。これらの事情により、患者数には実数として確定することができないものがある。*が付いている以外の上記の数字はすべて推定した概数である。
     上の方法で計算された東京都の数字は調査病院数とほぼ比例するので、2009年から2010年の全国の患者数は、2012年をベースとし、調査対象病院の総数(それぞれ376、387、397、397施設)に比例すると仮定して補正した。
    出典:国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部 院内がん登録室
    「がん診療連携拠点病院 院内がん登録 全国集計報告書 付表1〜6」2009〜2012年版より筆者作成。
    各年の報告書は以下のサイトからダウンロードできる。
    http://ganjoho.jp/professional/statistics/hosp_c_registry.html

     これらのデータは、潜伏期間が4年の固形がんが、今後すなわち2015年以降、多発する可能性を強く示唆するものである。しかも、ロザリー・バーテル氏が指摘するとおり注70、放射線は、単に直接にがんを発生させるだけでなく、身体全体の免疫力を低下させてすでにある微小な潜伏期のがんの発症を促進し、しかも発症するがんを悪性化させる方向でも作用する。この点を考慮に入れるならば、首都圏における、血液がん以外のいろいろな部位のがんの多発もまた、差し迫っているだけでなく、すでに始まっている可能性が高いと考えるべきであろう。事実、上記の「院内がん登録」統計は、東京の全がんについて、事故前の2010年から2012年までの2年間に、患者数が5万2090人から5万8662人(調査病院により補正)へと12.6%増加したことを示している(全国では調査病院数の補正値54万4067人から59万856人へと8.6%増加)。

     3-4-2.白内障と眼科疾患の増加

     もう一つの兆候は、東京圏における眼科疾患とりわけ白内障の増加傾向である。東京都内有数の眼科病院の一つである井上眼科病院の患者統計は、この傾向をはっきり示している(図14-1)。同じ井上眼科病院グループの西葛西・井上眼科病院の患者統計も、白内障手術件数のいっそう顕著な増加を示している(図14-2)。

    図14-1 東京都井上眼科病院の患者統計

    前掲小柴信子氏作成。
    出典:平成22〜24年度は、「災害情報ブログ」より引用。
    http://saigaijyouhou.com/blog-entry-1157.html
    平成23〜25年度は、井上眼科病院のホームページによる。
    http://www.inouye-eye.or.jp/about/statistics.html


    図14-2 西葛西・井上眼科病院の患者統計

    出所:http://www.inouye-eye.or.jp/about/statistics.html

     さらに、白内障や眼科疾患については、現在明らかな受診抑制や手術抑制が行われており、手術を受けたくても受けられない状況が生じている。杏林大学医学部付属病院眼科では患者が増え、2012年末以降「現在の眼科常勤医師では対応しきれない状況」注71が生じているという。現実の白内障の発症数は、これらの統計の示しているところを上回る可能性が高い。
     また、東京圏ではないが、東京圏と同じように福島に次いで汚染度の高い地域である宮城県仙台市およびその周辺でも白内障や眼科疾患が急激に増えていることが示唆されている。例えば、東北労災病院眼科の患者統計では、白内障手術数は、事故前の2010年から事故後の2012年までにおよそ2倍になっている(図15)。

    図15 仙台市の東北労災病院眼科の手術件数の推移

    出典:東北労災病院眼科ホームページ
    http://www.tohokuh.rofuku.go.jp/patient/outpatient/cons_info/ganka/

     これらの事実は、眼科疾患とりわけ白内障をめぐって極めて重大な事態が現に生じつつあることを示唆している。

      3-4-3.住民とくに子供たちの健康状態の全般的悪化と免疫力の低下

     東京圏の子供たちの健康状態の深刻な悪化を示す兆候が出てきている。2014年3月まで東京小平市で医院を開業していた三田茂医師は、同市での医院を閉じ、岡山市に転居した理由について小平市医師会にあてた手紙の中で、次のように書いている。


     …私は2011年12月から放射能を心配する首都圏の親子約2000人に、甲状腺エコー、甲状腺機能検査、血液一般、生化学を行ってきました。
    10歳未満の小児の白血球、特に好中球が減少している。
    震災後生まれた0〜1歳の乳児に好中球減少の著しい例がある(1000以下)。
    ともに西日本に移ることで回復する傾向がある(好中球0→4500)。
    鼻出血、脱毛、元気のなさ、皮下出血、肉眼的血尿、皮膚炎、咳、等々特異的でないさまざまな訴えがあります。
    小平は関東では一番汚染が少なかった地域ですが、2013年中旬からは子ども達の血液データも変化してきています。
    東京の汚染は進行していてさらに都市型濃縮も加わっています。
    市民グループの測定によると東大和、東村山の空堀川の河原の線量はこの1〜2年で急上昇しています。
    その他最近私が気になっている、一般患者の症状を記します。
    気管支喘息、副鼻腔炎などが治りにくくなっている。転地すると著明に改善する。
    リウマチ性多発筋痛症の多発。中高年の発症が増加している。
    「寝返りがうてない」「着替えができない」「立ち上がれない」などの訴えが特徴的。
    チェルノブイリで記載されていた筋肉リウマチとはこのことか?
    インフルエンザ、手足口病、帯状疱疹などの感染症の変化。
    当医院が貼り紙等で事故直後から放射能被曝の懸念をしていたことを知っているからでしょうか、多くの患者さんが「今までこのようなことはなかった」「何か普通とは違う感じがする」と訴えます。…注72


     とくに「10歳未満の小児の白血球とくに好中球の減少」は子供の免疫力の全般的低下を示す指標として注目される。
     さらに住民全体の免疫力の低下が生じている可能性があり、新型インフルエンザやエボラ出血熱など各種の流行性の病気が危機的に蔓延する危険も高まっていると言わざるをえない。

      3-5.精神科医の見た原発推進政策の病理

     政府は、被曝の現実的危険を真正面から見ようとせず、必要な対応も取ろうとせず、反対に汚染地域への住民帰還を進め、東京圏の住民と国民全体に放射線被曝を強要しながら、原発の再稼働を進め、さらには原発新増設・核燃料再処理も含め福島事故以前の原発推進路線に復帰しようとしている。このような政府の政策が続いて行くなら、福島やその周辺地域はもちろん東京圏の住民さらには日本国民全体の破局的な健康破壊という結果は避けられないのではないかと危惧される。
     現在進行中の福島事故の破壊的結果は、一般の住民に降りかかるだけではとどまらない。首相も政府閣僚も、天皇も皇族も、政府高官も高級官僚も、財界首脳も大資本家も、その本人と家族・親族の大部分は東京圏に暮らしており、影響は必然的に彼らにも及ぶであろう。
     さらに、経済産業省の公式文書注73に公然と記載されているように、福島事故のような原発の重大事故の起きる確率は、原子炉1基につき約500炉年に1回であり、残存する原発50基について計算すれば約10年に1回となる。これとは別に、原発の立地点ごとの存在年数で計算しても、確率は現在の18立地点につき約30年に1回である注74。つまり、原発を維持し続ければ、今後10〜30年間に、再度福島のような破局的事故が生じる可能性が高いのである。
     無知によるものなか、意図的なのか、いかなる精神状態によるのかは分からないが、日本の政府と指導層は、彼ら自身の立場から見ても、自己破壊的な政策をとっているというほかない。
     精神科医の久邇晃子氏は、破局的事故にもかかわらず原発に固執する政府の政策について、その「愚かさ」を指摘するだけでなく、さらに進んでその精神分析を試みている。久邇氏はそのような政策の中に「一種の病的な強迫行為」あるいは「心理学用語でいう『否認』の状態」を見いだしている。すなわち「安全でないと困るから安全であることにする。自分にとって都合の悪い事実は、無かったことにする。これが『否認』の状態であり、一種の絶望の表れ」であるという。さらに久邇氏は「自らを破滅させるようなことになるかもしれない綱渡りに乗りだし(しかも)硬直化してやめることが出来ない」という状況は「集団自殺願望」を「疑いたくなる」とも述べている注75。付け加えるならば、久邇氏のこの発言は旧民主党政権時代に行われたものであるが、現在の安倍自民党・公明党政権についてはさらに的を射ていっそう直接に当てはまると言える。政府と原発推進勢力は、自分たち自身とその家族だけでなく、福島とその周辺地域の住民を、また東京圏の住民を、そして日本国民全体を、さらには世界の人類すべてを、このような「集団自殺」に強制的に巻き込もうとしているのである。





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    ――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性(3/4)

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